ちょーじ

清美の頭は目まぐるしく回転した。

(叔母さんが言っていた。こんな時は南無妙法蓮華経が一番良く効くんだって)

清美は太鼓を叩く代わりに胸を拳で叩きながら、南無妙法蓮華経ドンドンを真似ごとながら唱え始めた。清美はそれを10分程続けていたが、霊が去って行く気配がない。とうとう疲れ果てて諦めてしまった。

「もう気ぃ済んだか?」

「フーッ……。あなたは誰なの? 何者?」

清美は諦めとともに、覚悟のようなものができてきた。

「ワシ、ちょーじって言うねん」

「ロープを切ったのもあなた?」

「そうや、綺麗に切れてたやろ。あのくらいのこと朝飯前や。あんた、金属ベルトのええ腕時計してるなぁ」

と言うや否や清美の腕時計の金属製のベルトがピンッと音を立てて、スパッと切れてしまった。

「ええっ! 何するんですか? これ、一週間前に買ったばかりなんですよ」

と清美は、今死のうとしていたことも忘れて、ちょーじに抗議した。

「どや、綺麗に切れているやろ。分かったぁ? 苦しいのは分かるけど、自殺するのはようないな。自殺したらどないなるんか分かってるの? 成仏でけへんのやで。この世とあの世の狭間に落ち込んでしもうて、長い間、そこから抜け出せんようになるんやで。しかも、苦しいから自殺するのに、死ぬ時の苦しみが死んだ後も消えんと続くんや、何時までも、何時までも。

もうちょっと死後の世界のことも勉強した方がええな。それに、あんたのこと危のうて、未だ目ェが離せんな。せやけど、ワシちょっと用があって忙しいんや。おい、タケル、後は頼むでぇ」