バザー・ナーダ(ナンを売る尼僧など)

白い広々とした通路、両側の壮麗な壁画の描かれた大理石の壁に沿って、歩いて行った。一定の間隔で置かれた両側のランプが、落ち着いた光を前に落としていた。

その中を少女は静々と進んで行く。ぼくもその後に従って行く。

少女の姿から、またしても、清艶な寄生蘭の花の匂いのごときものが匂い出し、漂い出して、後に続くぼくのどこにあるとも知れない性感を疼かせた。

やがて、少女はさらに広い石の階段を下り始めた。階段の両脇にもランプが掲げられてあって、足下を照らしている。少女は粛々と進んで行く。もうぼくの方を振り返ることもない。

ここはどこなのか。どこへ行こうとしているのか。何段も何段も果てもない、階段を下って、何か、地下帝国か、地下王国か、そんな失われた世界へと下りつつあるのか。

不意にアーチ型の入口が見えた。入った途端、ぼくは目の前の光景に唖然となった。

自分が立っている場所から、何段も下ったところに、ドーム型の円形天井になった途方もない巨大なホールが出現したのである。長方形の広大な面積を占めて、見渡す限り、バザーのごとき市が開かれているのか、店が何十何百となく並び、その間を通路が走り、そしてそこを人々が群れをなして歩き、動き、品物を売り買いしている姿が見えたからであった。

しかもその広さはテニスコートが二十面ほども取れるほどの空間であって、下は石畳、周囲はそのところどころに何個も入口があって、四方八方に通路が通じ、別の地下空間へと繋がっているようだった。驚いたことは、ここへ来るまで、この光景はもちろん、そこから放たれる騒音にすこしも気が付かなかったことであった。

一種のすり鉢状になった空間の周囲を抱くように設計された大理石の防音壁のごときもののせいだと思ってもみたが、真の理由は分からなかった。