しばらくして我に返った私は帰りの電車に乗り込み、お礼の気持ちを伝えようと携帯電話をポケットから取り出す。するとショウタからメッセージが来ていた。

「また会いたいなんて言ったらいけなかった。スミレちゃん、俺との将来を期待したらだめだよ」

え? どういうこと? せっかく二人でご飯に行って前よりも仲よくなれたと思ったのに、もう次はないってこと? 先ほどまでの様子とは打って変わって冷たい態度に混乱する。

文面から、私が何か気に障ることをしたわけではなさそうだが、やっぱり彼には何か抱えていることがあるのかもしれない。恋愛について話を振られたときのショウタの強張った表情や、四人でのお食事会の最後に朝木さんから言われた言葉がよみがえった。

私はこの前の食事を反芻しながら、要所要所をかいつまんでリサに説明する。食事の後のメッセージのことは、ひとまず私の心の中にしまっておくことにした。

──ショウタが恋人を欲していないことはこの間の四人の食事で承知していたが、今回の彼の食べ飲みっぷりに感心した私は、少し要点をずらして懲りもせずに探りを入れた。

「そういえば、この前の婚活パーティーには参加されなかったのですね、美味しい食べ物も飲み物もたくさんあったのに」

ところが、彼の返しは思わぬピンチとなって返ってくる。

「百人規模のあの会場に俺がいなかったって知ってるなんて、どんな記憶力なの。参加者全員の顔を覚えないといけないような仕事でもしてるの?」

冗談っぽく苦笑されたが、遠からずとも近からずな発言に心臓がどきりとする。確かに病院や薬局に従事する薬剤師にとっては必要のないスキルだろう。これからはもっと言葉選びに気を付けなければ。

「薬剤師なら、患者さんの顔や特徴を覚えるような感覚なのかな」

私が動揺しているうちに違った見解を述べてくれたため、そんな感じです、と笑ってごまかしたのだった。