【前回の記事を読む】肩こりの原因が「眼」にあるかも?疲れの盲点、眼因性疲労とは

第二章 眼因性疲労を知る

1 眼因性疲労(Oculomotor syndromes注1)とは何か

眼精疲労(asthenopia)すなわち眼性神経衰弱と神経衰弱とは違うのか

昭和15年発行の『理科教育』二月号に、【眼から来た神経衰弱の眼精疲労とは如何なるものか】という近藤忠雄医学博士の記事があります。神経衰弱とは、現代における慢性疲労症候群や不定愁訴症候群、あるいは自律神経失調症に相当するものと考えることができます。

当時は身体に生じる原因不明の各種の神経諸症状を神経衰弱と呼んでいたものと思われます。不定愁訴は臨床用語とされ、患者からの「頭が重い」「イライラする」「疲労感が取れない」「よく眠れない」などの、「なんとなく体調が悪い」という強く主観的な多岐にわたる自覚症状の訴えがあるものの、検査をしても客観的所見に乏しく、原因となる病気が見つからない状態を指します。症状が安定しないため治療も難しく、周囲の理解も得られにくいものです。

以下近藤博士の記事から抜粋引用します。

「神経衰弱と眼精疲労とは何処が違うか。本を読んだり、眼を使う仕事をすると頭痛がするとか頭が重たくなる、あるいは同じ仕事を30分も続けると倦きが来ると言う場合に『これは神経衰弱である』と考え、内科の治療を受ける人が少なくありません。又うっかりすると内科医の方でも普通の神経衰弱の手当てをする場合があるものです。

しからば同じ様な徴候がある普通の神経衰弱と、眼性神経衰弱の眼精疲労とは何で区別するか。眼精疲労の著しい特徴は、眼を使うと頭が痛くなるとか、頭が重くなるとかするものですから、この点さえ十分に注意すれば、『これは眼精疲労ではあるまいか』と気付くでしょうから、そうした場合は先ず眼科医の診察を求めることを勧めます。

眼精疲労には筋性や調節性のものがありますがメガネによって治し得ます。すなわち遠視や、近視が原因の潜伏斜視のときは、それを矯正するメガネだけでも大いに軽快しますが、なお不十分なときはプリズムを用います。乱視の場合は乱視メガネによってそれぞれ治癒せしめることができます。なお遠視や老眼では、近くを見るために特別な疲労を感ずる結果、この病気が起きることがありますから、適当なメガネを用いることが何よりも大切な心得であります。

症候性のものは、眼疾患そのものを治すことが根本治療法でありますし、神経性のものでは、生活様式の改良により、神経衰弱そのものを治すように努めることが肝要です。」

医師に相談する際に、内科にすべきか眼科にすべきか迷ったときには、自らの行動を顧みて眼を使った結果生じた症状と判断される場合には眼科に行きましょうと勧めておられます。

眼を使うといいますが、人は起きて活動しているあいだは絶えず眼を使っています、手元の細かいものを見る作業時は、遠くのものを見るとき以上に眼球運動は活発になりますので、「眼を使う」との表現をする時は、手元のものを集中的に見ることを意味していると解釈すべきでしょう。眼因性の神経衰弱であればメガネを掛けない限り真の治療効果は得られません。眼科でなく誤って内科に行けば一般の神経衰弱の治療を受けることになるでしょう。内科では真の源泉を見極めることなしに治療を施す可能性があります。