二十九日

Aパーティーは、春に備えて東尾根を偵察するためにB・Hに入ることになり、Bパーティーがこれをサポートする。四十キロ位の荷を担いではラッセルも胸まで入って歯が立たない。遭難碑の少し下まで一時間半のサポート。お互いの健闘をちかって各々に握手を交わし、別れを告げる。Cパーティーは稜線近くまでトレースの予定であったが、気象状態もそれほど良くなく疲れてもいるので停滞とした。

三十日

快晴。Bパーティーは停滞。Cパーティーは稜線近くまでトレースする。雪は落ち着いていてそれ程のラッセルもなく、調子よく行く。天気図の判断では今日の午後あたりから、移動性の晴れに入るはずで三十一日にアタックする方が有利だろうと出ていたが、今日の快晴を逃したのは実に残念である。

三十一日

二時起床。すでにサポートのCパーティーが食事を作っておいてくれる。サポートは早々に荷をもって出発する。オーバーズボンをはき、ヤッケを付け、オーバーシュー、アイゼンを入念につける。

雪の状態は昨日の晴れでさらに落ち着き、例の壁もサポート隊によりほとんど階段状に固められて楽であった。が、天気図はむしろ下り坂を予測させている。稜線に出るとすごい風でDAACの標旗も折れてエビのシッポにとげとげしく包まれていた。冷池小屋への下りは雪はほとんど吹き飛ばされて地肌が出ており、夏道通しに冷乗越に着く。

ここからは雪庇を避けて森林帯を行くが、サポートのラッセルのおかげで深い雪のヤブコギもそれ程苦労はない。やがて五時過ぎ冷小屋に着く。何度か見慣れた冷池小屋も今は完全に雪の下で、屋根の一部がわずかに掘り出してある。その軒先をくぐって中に降りる。サポートは順調にさらにラッセルしてくれている。

小屋でワカンを捨て、一息入れて出発。布引の下でサポートに追いつき、ここでサポートと別れ、岩肌と吹雪の稜線を黙々と行く。黒部から吹き上げる風は、氷のような固い雪を休みなく吹き付け、顔面はジンジンとして目も開いていられないぐらい。

雪はウインドクラストしていてアイゼンが良く効き、ピッケルに雪のきしむギイギイという音が何か奇妙な動物の鳴き声のように、一定のリズムでいつまでもついてくる。