「アオちゃんばっかり捕獲されるってことは、何か大事な兆候だってことにそろそろ気が付かないか?」

二人が一息つくと、科学部顧問で理科教師の三里が問いかける。

「と……言うと……?」

川北と安達は、三里に急に言われて口ごもる。

「アオちゃんが繁殖しているのは、どこが多い?」

水道局長の原田が助け舟を出す。安達がうーんと首をひねりながらつぶやく。

「林の中よりも、林のふちが多いかな」

「つまり、林縁りんえん種ってことだよな」

川北は、ポンッと膝を打って答えるように言う。

「草地の縁のササ原にも多いよな」

「そうすると、草原種でもある、ということになる」

三里はそう言うと、さらに続けた。

「アオちゃんが、林縁種でもあり草原種でもある。そして、林縁種や草原種が多いということは、この土地の植生はどうなっていると考えられる?」

「草原が多くなったっていうことは……」

川北と安達は、日本史、特に現代史のことを思い出した。

「そうだ、根釧原野はパイロットファーム計画で、一気に草地が増えたんだった」

「そして逆に、森林は激減してしまった」

原田はフッとつぶやいた。そうなのだ。この土地は、半世紀前までは森の国だった。それが今は、草原の国とも言えるほどに、森がなくなり、草地が広がったのだ

「生息している鳥が、すっかり変わってしまっている可能性が高いな」

「ポイントカウント法の調査箇所を増やさないとな」

川北と安達は、自分たちの調査が、この土地のこれまでの歴史と、これからの歴史に関わっていることに、三里と原田に気が付かされ、わずかながらも恐れを感じた。

「さあ、今日は終わりにしよう。最後に鳥の回収をして、網をたたもう」

三里にうながされて、三人は朝の調査を終える支度をしだした。

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※本記事は、2022年8月刊行の書籍『ニシベツ伝記』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。