【前回の記事を読む】「胃をすべて切除します」衝撃的な通告に胃がん患者の反応は…

手術前

二 決断

今回胃がんになった原因で私が思い浮かぶのは、お酒の飲みすぎであった。

お酒以外では私はかなり健康的な生活を送っていた。たばこは吸わないし、飲用の水にこだわり、食事も三食しっかり食べ、運動も野球が好きで還暦野球を目指して月に数回やっていた。それなのに、お酒を飲む時は無茶苦茶であった。特に好きな野球をやった後は、気心が知れた者同士で、野球が終わった昼頃から夜遅くまで飲むことがよくあった。

私がこんなにもお酒を飲むのには私なりには理由があった。

私は小学生の時から胃腸の調子が悪く、腹痛をよく起こし、ずっと痩せていた。小学生の時はそれでも何とか過ごせた。中学生になり、好きな野球をやりたくて迷わず野球部に入った。その頃の私が通った地元の中学校には熱血監督がいて県大会の常連校になっていた。当然練習も厳しかった。私の胃腸はその練習にまったくついていけなかった。二年生の時にダウンしてしまった。

その後自分の体に自信が持てなくて、高校では生物部に入部した。それでも大学受験が終わる頃から体調が良くなり、また野球を始めた。二十歳を過ぎると野球の後にビールを飲むようになった。信じる人は少ないが、ビールを飲むようになってから体調が凄く良くなり、体力もつき出した。

たまたま二十歳になり体力がついたのとお酒を飲むのが重なっただけかもしれないが、私にはお酒が魔法の薬のような気がした。だから当然飲んでいる時は楽しくて仕方なかった。そのお酒が飲めるか飲めないかは私にとって非常に大事な問題であった。

「入院については看護師が詳しく説明しますので、隣の部屋へ行ってください」

「胃がなくなるんだ」という思いと「でもお酒は飲めるようになるんだ」「でも大変な手術だなぁ」「転移を防ぐには仕方がないのかもしれない」といろいろな思いが頭を駆け巡る。

妻は、「胃を全部取るなんて。凄い手術じゃない」と驚きを隠しきれないでいた。看護師は丁寧に入院の手続きの方法等を説明してくれた。実は私は三年前にボールの投げすぎで肩を痛め手術をしたので、入院の手続きには慣れていた。私の関心はこの病院で胃の全摘手術をするかどうかになっていた。妻に、「胃を取らなくてもいい方法がないか調べてみる」と伝えた。

「その方がいいね」と妻も答えた。