「一番肝心な金はいつ払う」

「お女郎さん、全員が治ってからでいいですよ」

「そうしてもらうと助かるわ」

「元締。私、お金を持っていないのですよ」

「なに、文無しで来たのか」

「そうです」

「泊るところがなかったらどうするつもりだったんだ」

「どこかの橋の下で寝るつもりでした」

「それじゃぁ~乞食と同じだよ」

「今の私は乞食同然ですよ」

「でもよ。こんな大きな荷物を持っていたら追い剝ぎに襲われるか、身ぐるみ剝がされて、簀巻きにされて大川に沈められるぞ」

「そしたら運がなかったと諦めますよ」

「護身用に匕首は持っていないのか」

「剣術道場に行ったことがないので、刃物は使えません」

「その中は薬だけなのか」

「そうです」

「しょうがねぇなぁ~」

「家賃の代わりに、これを預けておきます」

とリュックサックから金の延べ板を出した。「金じゃないか」

「はい。これならお金より役に立ちますから」

「先生も……てぇ~したもんだなぁ」

「持ってみてください」

「どれ……うん! かなり重いな」

「そうですよ。本物の純金ですから、見た目より重く感じるのですよ」

「鉄の塊よりめっぽう重いよ。お静。持ってみな」

「そうだね。あらまぁ……」

「重いでしょ」

「本当だわ」

「なら預かるか」

「これなら小判十枚分になります」

「ホントか!?」

「はい」

「よし! いいだろう」

「ありがとうございます。あと食事付きでお願いします」

「高級旅籠と同じぐらいの出してやるよ」

「同じぐらいとは、どんなのですか」

「同じものは、同じだよ」

「そうですか。では、よろしくお願いします」

「分かったよ」

「ありがとうございます」

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※本記事は、2021年3月刊行の書籍『流れ星』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。