私は今朝も卵に挑戦した。ひょっとしてミラクルが、と思ったがなかった。

明日からは仕事なので、掃除をして、買い出しに出かける。今日も暑い。ちらし寿司(薄焼き卵はない)を作り、夕刻病院に行ってみた。お父さんはもっとしゃべれるようになり、心なしか右目も焦点が合ってきていて、安心した。仕事帰りの雄二と二人で病院を失礼して、喫茶店でコーヒーを飲んだ。

「親父がこうなってだいぶ堪えた。俺今まで恵まれてたわ」と言う雄二に相槌を打ちながら、私も母が闘病している時のことを考えていた。

私らは親に守られ育つ。そう卵の殻。その殻が壊れると、と思った時だ。突然卵が大きく覆いかぶさってきた。そして私は気を失ってしまった。目が覚めたら雄二の顔があった。一瞬のことだったようで私は喫茶店の椅子に寝かされ、タオルが額に乗っていた。

「大丈夫か?」

「うん」と私。

「あのもう大丈夫なようです。ご迷惑おかけしました」と雄二が大声で叫んでいる。雄二に抱えられて私はタクシーに乗った。

「何が起きたのかなあ」と雄二。

「あのね、卵が襲いかかってきて、目の前が暗くなったのよ」と私が言うと、雄二は私の額に手を当てた。

私は益々の卵恐怖に打ちのめされていた。

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※本記事は、2022年5月刊行の書籍『卵の殻が割れなくて』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。