第一章 青蛙

かすかな安堵

ブドウ畑の枯れ葉色は真冬だけ

一年のほとんどが青々と茂る草草

戦いのように今日も草を刈る

ぶうお〜ん ぶうお〜ん

草刈り機が起こす不吉な風に

蛙がぴょんぴょんと飛び出してくる

ほーら はよ逃げなさい はよーはよー

待ってなんかやらないよー

逃げ遅れた蛙たちは 一匹は腹を()かれ

一匹は足をもぎとられ

それでも逃げようと飛び出た腸を引きずり

千切れそうな足で逃げていく

ごめんな ごめんなと

つぶやきながら草刈りを続ける

肉も魚も食らっているけど

目の前の傷つけた蛙に詫びる

よたよた必死で逃げる蛙を

小さなヘビがパクリとくわえ

意気揚々と頭をもたげ持ち帰る

ああ 蛙は食われてしまうけど 

あの小さな蛇は今日一日満腹を味わい

蛙一匹分大きくなるだろう

ある偉いお上人(しょうにん)様が言われたそうな

わが命終われば川の魚に食わせよと

身勝手だが蛙の命が生かされたことに

ほっとする

草を刈るたびに味わう罪の意識と

かすかな安堵