11月19日(木)

イレウス

兄の葬儀は1時間で終わり2時過ぎには出棺した。

火葬場はすぐ近くにあった。炉が閉じられ読経が終えるのを見て、徳島空港へ引き返した。

手持ちのチケットは18時55分発、羽田到着20時10分のフライトであった。

これだと、良子の様子を見に行くことはできない。病院の面会時間は20時迄なのである。姉たちも早く帰れ
と言った。

兄の骨を拾うことはできなかったが、そこで失礼した。

幸い、16時25分発、羽田17時40分着の便に乗り換えることができた。

しかもこのフライトが稀にみるスムーズさで、離陸も数分早く、羽田着陸も定刻より5分ほど早いというものだった。あい子をJRの駅で拾って、それでも19時前に病室に入ることができた。

良子は元気がなかった。

今回の一連の動きの中で一番銷沈した姿に見えた。

愚痴は言わない。笑顔を見せようとするのであるが、表情が硬い。

それは私も同じであった。

マラソンを完走した直後に、もう一度走りだせと言われたようなものだ。

「入院診療計画書(緊急入院用)」というA4の紙が置かれていた。

病名:イレウス
症状:腰痛、吐き気
治療計画:イレウス管挿入の上で絶食・補液で経過を見ます。
検査内容及び日程:採血、レントゲン、CTなど必要に応じて行っていきます。
手術内容及び日程:必要時に検討します。
リハビリテーションの計画:必要に応じて行っていきます。
推定される入院期間:1~2週間(経過によって前後します)
特別な栄養管理の必要性:無
看護計画:(省略)

手術後の合併症発症の可能性として、イレウス(腸閉塞)は10%の確率と、手術前の説明で聞いていた。Webサイトでの情報も併せて調べ、私はそれを一番恐れていた。

私の中で後悔が渦巻いた。退院が早かったのではないか。食事は5回にして一度は少量にせよと、言うのは言ったが、強く徹底させなかった、もっと強引に命じるべきであった。あい子が貰って持ち帰った銘菓饅頭をうまそうにパクついていた。あまりにうまそうだったから、大丈夫かなと思いつつ止めなかった。なぜやめておけと、せめて半分にしろと、どうして言わなかったのか。……次々と浮かんだが、口には出さなかった。言ってみても詮ないことである。

『腸閉塞イレウスについて』
というページがある。その中で次のように解説されている。

腸閉塞の原因と、病状の程度により治療法も異なります。絞こう扼やく性イレウスと診断した場合は、全身状態が急激に悪化するため、緊急手術が必要です。閉塞性イレウスの場合は、腸閉塞の病態の悪循環を予防、改善することが大切です。脱水の改善、電解質異常の補正のため、適切な輸液を迅速に点滴投与します。

腸内細菌の増殖・毒素産生の予防のためには、これらの菌に感受性の高い抗生物質を点滴投与します。また、栄養管理の目的で中心静脈栄養(IVH)を行う事もあります。腸管内圧の亢進を改善するため腸管の減圧を行います。胃管やイレウス管を鼻から挿入して拡張した腸管内容やガスを吸引排除します。

イレウス管は胃を超えて小腸まで管を進めるため、直接拡張した腸管内容を排除でき有効です。また減圧したあとに、イレウス管より造影剤を注入し小腸造影することで、閉塞部位の診断にも役立ちます。軽度の癒着性イレウスなどでは、これらの保存的な治療で治癒することがあります。

しかし4~7日保存的治療を行っても、


●腹痛、腹部膨満などの症状が改善せず、排ガス、排便がない。
●腹部X線で小腸ガスの減少や消失がない。
●胃管やイレウス管からの排液量が減少しない。
●イレウス管からの造影で、腸管が完全に閉塞している。


などの場合は、保存的治療をこれ以上行っても治る見込みは少なく、手術が必要となります。手術はその原因と程度により、開腹して癒着剥離、索状物の切除、腸管の切除、吻合、人工肛門増設、などを行います。最近では、程度の軽い癒着性イレウスに対し、腹腔鏡下での手術も行われています。

これで見ると、4日から7日が勝負である。

「焦らないで、気長にがんばろう」と私は良子に言った。

私も沈んではならない。もう一度気合いを入れよう。

※本記事は、2019年3月刊行の書籍『良子という女』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。