【前回の記事を読む】日本産業衰退も当然?「アベノミクス時代の企業経営」の実態

第一章 失われた三〇年

《一》平成三〇年間─何もしなかった日本

先進国で最悪の格差社会になった日本

格差社会とは、ある基準をもって人間社会の構成員を階層化した際に、階層間格差が大きく、階層間の遷移が不能もしくは困難である状態が存在する社会です。このことは社会的地位の変化が困難、社会移動が少なく閉鎖性が強いことを意味しています。

日本では第二次世界大戦前までは、欧米先進国と同じように格差の大きい社会でした。それが戦後、高度経済成長を遂げている間に格差は減少し、「一億総中流」といわれるように、先進国では最も格差が少ない国となりました。

だいたい、上流一~二割、中流六~八割、下流一~二割ぐらいという感じでしたが(それも上流一割と下流一割の差が欧米ほどではありませんでした)、平成年間から中流が下流にどんどん(若い方から)落ちて行って、三〇年間で先進国で最悪の格差社会と言われるようになってしまいました。

厚生労働省は、バブル期には、主に株価や地価の上昇(資産インフレ)を背景として「持てる者」と「持たざる者」との資産面での格差が拡大し、勤労という個人の努力とは無関係に格差が拡大したとして、当時問題視していましたが、その後のバブル崩壊による資産デフレの進行とともに資産面での格差は縮小したとしています。

一九九七年を頂点に始まった正社員削減、サービス業、製造業における現業員の非正規雇用への切り替えにより、就職難にあえぐ若年層の中から登場した、安定した職に就けないフリーターや、真面目に働きながら貧困にあえぐワーキングプアといった存在が注目されるようになったこと、ジニ係数の拡大や、ヒルズ族などセレブブームに見られる富裕層の豪奢な生活振りが盛んに報じられるようになったことなどを契機として、日本における格差社会・格差拡大が主張されるようになりました。また同時に盛んに報じられるようになった言葉に「ニート」がありました。

一九九七年から二〇〇七年の間に、企業の経常利益は二八兆円から五三兆円に増加しましたが、従業員給与は一四七兆円から一二五兆円に減少していました。小泉内閣(二〇〇一年~二〇〇六年)において、正規雇用が一九〇万人減り、非正規雇用は三三〇万人増えました。

厚生労働省の二〇一〇年版『労働経済白書』では「大企業では利益を配当に振り向ける傾向が強まり、人件費抑制的な賃金・処遇制度改革が強められてきた側面もある。こうした中で、正規雇用者の絞り込みなどを伴う雇用形態の変化や業績・成果主義的な賃金・処遇制度が広がり、賃金・所得の格差拡大傾向が進んできた」と指摘していました。

マスコミや野党などは、当初、単に格差社会を指摘するものでしたが、次第に格差の拡大、世襲化という点を強調するようになりました。