私も同じだ。職場でも日常生活でも他人と話す時は必ず言葉を選んでいる。社会人として医療者としての立場から外れないように、感情は押し殺し、泣くことさえも忘れてしまった。彼の言うように彼と喋っている時は、思ったことを素直に話せ、気持ちがとても楽だった。

この部屋では私たち二人だけの世界で、他の誰にも邪魔はされない。自由に会話が出来、自由に感情を表すことが出来る。でも、この部屋から一歩出れば彼は元の世界に戻ってしまう。彼が帰る時、私は彼に訊ねた。

「あなたが言う終活って何をしたいのかしら」

再会した日から気になっていたことだ。彼の表情は(うつろ)ろで、遠くを見つめているようだった。「こうしたい」と言って、さきほどハグした時のように短いキスをすると、扉の外の現実世界に消えて行った。

〈件名〉不倫による愛人の心得

夜分に失礼します。もし、私たちが俗に言う不倫関係になっても私はあまり罪の意識を感じません。何故って、あまりにあなたと私が同じ想いを抱いていて「あなたは私」「私はあなた」、一心同体以上に自分自身過ぎるから、自分に不倫ってあり得ないでしょ。自分自身を愛していて、自分自身とHするのは、一人Hみたいなものでしょ。だから、罪ではないのです。何か変な理論かな。

でも、あなたには迷惑はかけないから私の愛人としての心得をお約束します。

・家族、仕事のことは聞かない

・自分の身分はわきまえる

・いつでもあなたを受け入れる

・いつまでも待っていられる

・見返りは求めない

・愛されるより愛する喜び

・最後はご家族の元へ帰す

あなたを大切にしたいと思っています。最後まであなたの気持ちを尊重します。私は今回あなたとお逢いできただけで、喜びでいっぱいです。

東野と知り合う7~8年前、私は妻子ある男性と付き合っていたことがある。7歳年上の優しい人だった。身体の相性も良かったが、私が婦人科の病気になると、SEXが出来なくなった。手術後、自然と別れてしまった。所詮、身体が目的の付き合いだったのだろう。

その時の不倫の愛人の辛さは嫌というほど分かっていたつもりだった。私は愛人体質なのか、結婚願望はあったものの2度も失敗している結果からそうなのかもしれない。

【前回の記事を読む】「再会してもう一度愛し合っていると思っていたのは私の錯覚だった」