第3章 情報認知

10 〈ライブ表現〉と〈デザイン表現〉の使い分け

それぞれのメリットとデメリットを把握する

実際の映像制作ではライブ表現とデザイン表現をうまく融合させて表現をすることがほとんどです。そのためには両方のメリット、デメリットをしっかりと理解し、使い分ける必要があります。

写真を拡大 [図1]2タイプの表現の比較

ライブ表現は「映画」の考え方が基本のため、シンプルな映像表現をとおして擬似体験させることを目的としています。

デザイン表現は「設計」の考え方が基本のため、視覚印象により機能的かつ効果的に情報が伝わることを目的としています。

同じ映像表現でも両者の考え方はまったく異なるため、クリエイターのタイプもこの2パターンに分かれることが多いです。しかし、ライブ表現とデザイン表現はうまくバランスをとってミックスさせることが正しい表現方法です。どちらかに偏った技術しかもっていないとバランスのよい表現は難しくなってしまいます。

映像表現とは、ライブ的な臨場感、リアル感を保ちながら、いかに短時間で伝わるようデザインしていく行為だといえます。
 

情報系映像の情報認知

情報系の映像はできるだけ視聴者に負担をかけず情報を認知してもらうことを配慮しなければなりません。負担とは「時間拘束」と「脳への負荷」です。ライブ表現は脳への負荷は少ないものの時間拘束は長くなります。デザイン表現は短時間で伝えられますが脳への負荷が大きくなります。

これらのデメリットを抑えてメリットを生かすためにはライブ表現とデザイン表現の使い分けが必要になります。

ライブ表現とデザイン表現を交互に見せる

テレビ番組などではライブ表現とデザイン表現を交互に見せながら、情報の理解を助けています。たとえば、スタジオ収録はライブ表現ですがVTRはデザイン表現です。

スタジオトークでライブな雰囲気を楽しませ、VTRで凝縮した情報をわかりやすく伝えています。

[図2]ライブ表現とデザイン表現を交互に見せる例

ライブ表現とデザイン表現を同時に見せる

VTR中にスタジオキャストのリアクションがワイプ表示される演出をよく目にします。

これはデザイン表現とライブ表現を同時進行させたものです。キャストのリアクションを入れることで視聴者は一緒にVTRを見ているような感覚になります。これにより感情移入を発生させているのです。

写真を拡大 [図3]ワイプは視聴者が一緒に映像を見ているような感覚になれる

ライブをデザインした短尺映像

ライブ系の映像は生放送や記録収録でない限りすべての時間が作品になることはなく、ライブ感を保ちながら時間を短くすることがほとんどです。

完成尺の時間が短いほどデザイン的演出が求められるため「伝わる表現」はより難しくなります。5分以内の短尺映像は以下の3点を考慮して仕上げる必要があります。

1・伝えるべき内容の本質部分が入っている

短くすることは必要ない枝葉を切り取り、幹(本質)を残すことです。見映えするカットばかり残して本質を切り取ってはいけません。

2・文脈に整合性がある

時系列どおりに短くするとストーリー文脈に矛盾と違和感が生じやすくなります。簡潔でありながらも矛盾と違和感がなく、整合性が保たれている必要があります。

3・ライブ感を保っている

短いほど臨場感や無作為感を保つのは困難です。そのため、短尺映像でその場にいるような「体験」を与えるにはどうすればよいかを、常に考えなくてはいけません。

視聴環境による影響

視聴するモニターの大きさと視聴環境も表現方法の選択に大きく影響します。ライブ表現は映画館や自宅のソファなどゆったりとした環境と大きな画面で見ると大変効果的ですが、携帯端末のような小さな画面やゆっくり視聴できない環境では不向きな表現といえます。

情報認知は「伝えたいこと」「視聴環境」を考慮してバランスを調整しなければなりません。

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『伝わる映像 感情を揺さぶる映像表現のしくみ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。