【前回の記事を読む】「読めなくても書ける」韓国の子供たちの驚異の英語力!

アジア各国の英語教育

日本人が長年日本語のみで生活ができたのは、日本が他国の言語に占領されたことがなかったという幸運があったからだと言えます。

土着の言語と新しい支配者の言語の両方を使わなければならなかった国では、独立後、土着の言語を取り戻す努力がおこなわれました。その上で、新たに今、非英語圏の国々が、世界情勢に合わせて英語教育に力を注いでいます。ヨーロッパの国が近隣諸国の言語を習得するのはお隣の国同士が方言を習得するようなもの。日本にとって参考にすべきは、小学生からの英語教育先進国であるアジアの国々の教育ではないかと思います。

現代を生き抜くための教育

アジアの国々の早期英語教育の取り組みを、『世界の英語を歩く』(本名信行著/集英社新書2003 年刊)から知ることができます。

アジアの国々は英語を国内言語、あるいは国際言語と認識して、小学校から英語教育に力を入れています。

インド、シンガポール、ブルネイ、フィリピンなどの英語公用語国ではずっと以前からそうでしたが、最近ではタイ、ベトナム、インドネシア、中国、韓国などの英語国際語国でもそうするようになっています。二一世紀を生き抜くためには、英語はどうしても必要であるという認識です。

以下の引用文に付した見出しは著者によるものです。

英語を教育言語とするシンガポール

シンガポールでは英語は第一公用語とされているので、子どもは小学校入学以前から英語にふれる機会が多いのです。小学校から英語は学科でもあるし、母語と道徳を除く他のすべての学科の教育言語でもあります。

英語教育ではコミュニケーション・スキルズと同時にリテラシーの訓練が重要視されています。これは幼時から身近に話されている英語を聞き慣れている場合には、それ程難しいことではないと思います。

英語を正課として週5時間設定するフィリピン

フィリピンではフィリピノ語と英語の二言語の教育を目指しています。フィリピノ語は国民的アイデンティティーのシンボル、英語は国際コミュニケーションの言語と位置づけています。小学校で英語は学科として週五時間が割り当てられています。

自国からの発信が第一義の中国

中国の英語学習者は年々増加しています。

現在、人口の三割は英語を勉強しているといわれるので、三億人以上になります。中国では二〇〇一年から大都市を中心として小学三年から英語が正課になりました。大きな本屋には小学英語の参考書があふれています。到達目標もかなり高いように思われます。

中国は2005年に小学校1年生から正課となりました。自国を知ってもらうための、徹底した、発信型の教育がされているそうです。

教員に360時間の研修を義務付ける台湾

台湾の学校教育では、英語をLWC(Language forWider Communication 広域コミュニケーションのためのことば)と位置づけています。日本の文部科学省に相当する教育部では父母の熱心な要望に(こた)えて、二〇〇〇年から小学校に英語を正課として導入しました。そして、五、六年生に週二時間のプログラムを実施しています。

教育部は小学校英語教育の開始にあたって、英語能力の高い教員を確保するのに多大の努力をかたむけました。小学校英語教員の能力試験には五万人の受験者が集まったと伝えられています。合格者はさらに二四〇時間の英語技能研修と、一二〇時間の指導研修が義務づけられます。

台湾がこのプログラムに本格的に取り組んでいることがわかります。台湾政府は台湾をAsian-Pacific Regional OperationalCenter(アジア太平洋地域展開センター)に仕立てる壮大な計画を持っています。そのためには、五〇万人くらいの英語と北京語のバイリンガルを必要とするとされており、人材養成に乗り出しています。小学校の英語教育は、この裾野を広げる試みなのでしょう。

(『世界の英語を歩く』本名信行著/集英社新書2003年刊/206~208頁より)