第一話 ペニシリン

「では、奥にどうぞ」と居間に通された。

「失礼します」

「こんにちは」と中にいる太郎左衛門の妻で、五十歳ぐらいの女に挨拶した。

「どなた様ですか」

「薬屋らしいよ」

「そうですかぁ~……」

「では、話を聞こうか」

「ありがとうございます」

「うん」

「聞きにくいことを、あえて聞きますが宜しいでしょうか」

「その為に来たんだろ。でも、言いたくないことはダメだぞ」

「そうですね」

「だったらいいよ」

「では早速ですが……お聞きします」

「おぉ!」

「黒鉄屋さんの所のお女郎さんは、瘡毒を持っている人はいますか」

「いるよ」

「何人ぐらいいます」

「殆どが持っているよ」

「そうですか。で、元締さんの所にはお女郎さんは、何人ぐらいいます」

「百人だな」

「そうですか。で、他の店には何人ぐらいいるのですか」

「同じく百人ぐらいかな」

「何軒ぐらいありますか」

「南が十軒・北が十軒だな」

「お女郎さんの数は同じですか」

「そうだな」

「合計で二千人ですか」

「もう少しいるかな」

「多いですねぇ~……」

「それでも女郎が足りなくて、お客があふれてしまう日もあるんだよ」

「好き者が沢山いるんですね」

「なに、遊びと言ったら酒を飲むか博打をやるか、女漁りをするかだよ」

「いつの世も同じなんですね」

「徳川様が天下を取って一番最初に作ったのが、岡場所だからな」

「ホントですかぁ……!?」

「天子様だって白拍子などの遊女を置いたんだか

らな」

……!?……

「そうしないと城下町を作る人足が、集まらないからな」

「それは言えますね」

「どうだい。こんなもんで」

「良く分かりました」

「他に聞くことはあるか」

「いいえ。ここから本題に入ります」

「そうか」

「お店は何刻から開くのですか」

「夕七ツ申の刻(午後三時〜五時)からだな」

「それなら、午前中に済ませますか」

「どう治すんだ」

「その為に瘡毒を治す薬を持って来たのですよ」

「そんなに効く良いのがあるのか」

「はい」

「まさか、ご禁制の南蛮から密輸して来たのではないだろうな」

「いえ、わたくしが開発したのです」

「どぅやって作ったのだ」

「これは我が家の秘伝ですから秘密です」

「間違いなく南蛮ではないのだな」

「はい、神仏に誓って言えます」

「分かった。で、どうやって使うんだ」