喜歌劇『クローディアスなのか、ガートルードなのか』

登場人物

クローディアス … 先王の弟、後にデンマーク国王
ガートルード …… デンマーク王妃、ハムレットの母
ポローニアス …… 内大臣
ハムレット ……… 先王の息子、デンマーク王子
女官長
執事
肉屋
肉屋の女房
パン屋
酒屋
酒屋の女房
大工
鍛冶屋
伝令

デンマーク・エルシノア城内および城下での出来事。

舞台の平面(平舞台)に二段重なる様式の馬蹄形三層の舞台装置。

上舞台と中舞台の両端は「廊下」となって上手・下手袖まで伸びている。

上舞台には左右対称的に二本の柱が立っている。

上舞台中央奥に、国王・王妃登退場のための階段が設置されているが、客席からは見えない。

場面設定として、テーブル・椅子・ソファなど小道具を用いる場合もあるが、原則的には何もない空間である。

第一幕

第四場 中庭

音楽(「気の早い月」)。上舞台に明かりが入る。

翌日の夕方。

中央奥に置かれたベンチに、王の弟クローディアスが腰かけている。

王妃ガートルードが、ゆったりと歩きながら歌う。

ガートルード: ああ 気の早い月
もう 白い顔を見せている
まだ 陽が西に隠れていないのに
暮れなずむ空で ほほ笑んでいる
ああ 気の早い月
もう 白い顔を見せている
まだ 陽が赤く輝いているのに
群青色の空で ほほ笑んでいる
ああ 気の早い月
控え目なあなたが めずらしいこと
萌える若葉の匂いに 誘われたの?
森のフクロウの声を 待ちかねたの?
ああ 気の早い月
夜の帳(とばり)が下りるのを 待っている
待っている
……クローディアス殿 どうされました?
今日は言葉を飲み込んだまま 何もお話にならない
いつもは 羽をまとった言の葉が 
今は 鋼(はがね)の錘(おもり)がついたよう 
いつもは 優しく奏でる言の葉が
今は リュートの弦が切れたよう
何もお話にならない どうされました?

クローディアスがベンチから立ち上がり歌う。

音楽(「中庭で過ごすひと時」)。

女官長が上手奥から現れ、王妃とクローディアスを柱の陰から確認すると、立ち去る。

クローディアス: 西に沈みゆく夕陽は 美しい夕月の前触れ役
空を赤く染める落日は 白い輝きの引き立て役
ああ 王妃様のおそばで過ごすひと時はクローディアスの幸せ 幸せ
ガートルード: ああ クローディアス殿と過ごすひと時は
ガートルードの楽しみ 楽しみ
クローディアス/ガートルード: ああ この中庭で過ごすひと時は
何よりの歓び 歓び
クローディアス: デンマーク国に咲く 一輪の薔薇
華やかな美しさ 香(かぐわ)しさ 
ガートルード: 時の針は 動きを速め
薔薇の美しさ 消え去って
花弁(はなびら)しおれ 香りも失せて
クローディアス: 時の針の 動きは止まり
薔薇の美しさ 鮮やかに
時間を超えて 今この胸に
クローディアス/ ガートルード:ああ この中庭で過ごすひと時は
何よりの歓び 歓び

中舞台に薄暗い明かりが入る。廊下。女官長が下手奥から現われる。

やや遅れて、執事が上手奥から現われる。(上舞台の場面は、同時に進行している)

女官長: アルバート、ポローニアス閣下にお伝えしたね。
執事: はい。お二人とも中庭におられたと。
女官長: 緊急のご報告って何だろう。
執事: 先ほど伝令を閣下のお部屋に案内したから、そのことでしょう。

中舞台、溶暗。

※本記事は、2019年8月刊行の書籍『雪女とオフィーリア、そしてクローディアス』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。