4年生の春、大逆転が起きた。

「心臓に病気があって、体育はいつも見学しています……」

もう4年生だから自分で先生に言えるよね、という母の言葉通りに、忙しそうにしている新しい先生にそっと話しかける。若めの女の先生だけれど、なんだかちょっと厳しそうだ。

「できる限りでいいから、参加しなさい」

予想外の返事に、えっ、と言いかけて、先生の表情を覗く。

「でも、走っちゃいけなくて」

「走れなくても、歩くことならできるでしょ?」

まるでそれが当たり前のことのように、先生は言った。見学は楽だし、めんどくさいのは嫌なんだけどな、と思いながら、私は少し嬉しくもなっていた。体育が、初めて授業になる。準備運動が終わると、みんなは校庭を走る。私は校庭を歩く。ランニングは、ウォーキングに置き換えることができた。

「あ、姫花ちゃん!」

「今日は歩いてるんだ!」

2周目に入ったみんなが、私のすぐ横を通り過ぎていく。思わず「頑張って」と声が出た。今まで見てもいなかった授業が、近くに感じる。私も、体育に参加している。球技やマット運動は、みんなと同じように取り組むことになった。かっこいいと思っていたバスケは、やってみると難しい。ボールが意外と大きくて、手からこぼれてしまう。シュートの練習は一本も入らなかった。体の動きがぎこちないのが、自分でも分かる。

※本記事は、2022年3月刊行の書籍『キミがいるから私は』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。