6 明滅

「それで、スグルはどんな歌を歌っていきたいわけ?」

「どんな歌って」

次第に、紫苑(しおん)色か(いろ)ら漆黒の空に明け渡されていく。星々はこのときを待っていたかのように、明滅をはじめる。喫茶店の窓越しからも、僅かばかりそのグラデーションと静かな夜の訪れを感じ取ることができる。青年はその星々がちらと見えたときに、なんだか蛍のようにも見えて、きっと、星も蛍も同じ命の川が流れているんだろうな、と、要約すればこのようなものがよぎった。

「う~ん。ぼくは、どうしようもないほど、暗くなってしまうときがある。呼吸さえも億劫になってしまう。そういうときに、音楽を聴いたり、本を読んだり、寝たり、美味しいものを食べたりして、励まされることもあるけれど、そういう歌が歌いたいなぁ」

サヤカもこれには感じるところがあったのか、ふ~んと言ってから、少し、納得した様子になって、チーズケーキを小さくフォークで切って、その口元に運んだ。それからしばらく味わい、スグルの言葉も噛み砕いてから、再び、話し出した。

「スグルは自分でも曲を作ってるんだっけ?」

「うん。一応」

「それは凄いことだわ。今度是非聴かせてよね」

「サヤカの、前で歌うのは、ちょっと照れる」

「じゃあ、誰の前で歌うっていうのよ! そんなんじゃボーカル失格」

「それ、サヤカに言われるとだいぶショックだわ」

サヤカはニコニコと口角を上げて、それから、あどけない少女のようになってしまって、

「頑張ってね! 応援してる」

青年は羞じらう以上に、やってやろうという気概のようなものが芽生えてから、一度、呼吸を調えて、

「うん! 頑張るよ……やるだけやってみる」

「あ~あ……、もうひとつデザート頼もうかな」

「え!?」

「何か、悪いかしら」

「いえいえ、全然」