博樹、多枝子から呼び出される?

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多枝子と二人で病室を出た。大きな病院には食堂がつきものだが、この病院も地下一階が売店と食堂だ。

エレベーターを降りると、二人は窓際の席に腰を下ろした。食堂とはいっても雰囲気から言えば喫茶店。メニューでいえば洋食屋さんといった感じである。病院玄関から直接入る階段があり、来院者以外も来られるようになっているが、お客はほとんどが来院者である。多枝子の勧めでエビピラフを二つ頼んだ。グラスの水を口に含むと多枝子の方から話を切り出した。

「お父さんがどれだけ楽しみにしていたか分かりますか?」

「いえ、分かりませんが」

当然分かるわけはない。そのまま答えた。

「あんなに元気のいいお父さんは久しぶり」

「そうなの?」

「仕事柄人を多く見て来たので人が好きなんです。興味津々で。いい人ばかりじゃないから気を付けてって言ってもお構いなしで。クスクス。でもその分人を見る目はしっかりしているの。怖いくらい……御神さんは気に入られたみたいね。私も安心しました」

気に入られたかどうかは後の問題として、確かに以前盗み聞ぎしていた様子とは全然違って、ハキハキとしていた。緊張で気にも留めなかったが、咳込む様子はなかった。

「いつもは苦しそう……。でもお父さんは言うの。簡単に死ねない事も必然だって。何かがあるから人は命をいただいているって。私にはわからないですけどね」

首をすくめてにっこりとおどけて見せた。

「簡単に……、死ねない事も……」

博樹は自分のことに照らし合わせて考え込んだ。自分が生きていることにも何かがあるのだろうか? 

「此処のピラフ美味しいでしょう」

無邪気な多枝子に、返事もままならず思いの丈が口をついた。

「僕があなたに会えたのは、多分必然です!あ、いや……その」

口に出してから恥ずかしくなって下を向いたが、意外な答えが返ってきた。

「私もそう思いますよ。うん、おいしい」

いつもそうである。自分の不器用さが嫌になる度、多枝子は助けてくれる。普通に考えれば、十八歳も年の離れたおじさんである。お金があると思われているのだろうか……。多枝子が優しければ優しいほど不安になる。しかし今は、この幸せに浸っていたい。大事な話を避けながらひと時のランチを楽しんだ。