逆転の発想の効果の分析

このことは、ナイスデイの歴史の上で、とても大事な転換点になりました。だからなぜこんな奇跡が起こったのか、しっかり分析をしておく必要があります。

利用者さまは褒められると誇りを取り戻し自信がつくとともにより自立しようと勇気を持って行動されます。それを見るとスタッフは嬉しくなります。また褒めるためには、スタッフは前回の利用者さまの様子も覚えていて言葉に出します。すると利用者さまは自分のことをよく知ってよく看てくれると感じます。こうして両者の人間関係は深まり、より親密で良好な関係が形成されていったのではないでしょうか。

そしてそのまま良い状態は続いていたようです。今まで経験したことのない雰囲気が出てきていたのです。毎年恒例のようにお願いしているアンケート調査でも、2019年12月のアンケートの余白の意見欄に「できることは自分たちでさせてもらう」「あまり良くしてもらうのでもったいない」「職員とお話をもっとしたい」「このままで十分満足している」「利用者さん同士でお話をしたり、ゲームをするのがとても楽しくなった」等と、今まで見られない言葉が書かれていました。

そして雰囲気はどんどん良くなり、3ヶ月ほどすると、利用者さま同士で助け合い、いたわり合って、よく話し合う姿が見られるようになりました。自慢話でもなく、卑下しながらちゃかす感じでもなく、心の中で感じていることをそのまま素直に話されていることが、不思議と癒しを感じさせるものになっていきました。

お互いに話したり聞いたりすることが、互いを癒す力となっていくという感じでした。誰一人身を引いていることもなく、避けているわけでもなく、無意識的に場から離れているわけでもなく、でしゃばるのでもなく、すべての人が自発的に参加して自分を肯定して楽しんでいる感じがしました。

今までとまったく違って、静かな活気がみなぎっていました。そこにいるだけで、なごみました。そして、疲れが取れていく不思議な雰囲気でした。いったいこれはどういうことなのかと驚きました。利用者さまは一体感で結ばれ、まるで聖なる、不思議な救いのある共同体としての力を感じたのです。いろいろ調べていくと、TC(治療共同体)ではないかと思いついたのです。

【前回の記事を読む】昔は姥捨山だったが…高齢者が「経済的独立」を勝ち取った背景

※本記事は、2022年5月刊行の書籍『生の希望 死の輝き』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。