パンドラの箱が開いた

あたしは液体を飲まされて、しばしば気を失った。そのうちに感覚が麻痺して、今が何日なのか、そして昼夜何時頃なのかもわからなくなっていた。でも、こちらが冷静でさえいれば、必ずチャンスはくる。そして、それはそんなに間を置かずにやってきた。

朝、まだ暗い時間、珍しく家が静かだった。男のうち二人は夕べ帰ってきていないようだった。二階に多分二、三人、誰もが眠っているのか物音はしなかった。ちょうど、昨夜トイレに行ったタイミングで、拘束も解かれていた。あたしは今だと、直感した。今を逃したら、逃げることはできないかもしれない。そっと音を立てないように、立ち上がった。

息を殺して、玄関まで来た。玄関横に誰か寝ている。万事休すかと思った。あたしが音を立てないように玄関の扉を開けると、その若い男も一緒に飛び出てきた。とっさに捕まると覚悟したが、そうではなかった。

「走れ!」

若い男が言った。二人とも無我夢中で走った。七、八分で大きな通りに出た。あたしは交番の表示を見つけると、迷わずに行こうとした。若い男に制止されて、ふと足もとを見ると二人とも裸足だった。でも、ここで迷っていたら、また捕まってしまうかもしれない。構わずに交番に入った。若い男も付いてきた。交番勤務の警官が、裸足で駆け込んできた二人の男女を見て、驚いていた。

「何日間かわからないけど、男たちに捕まって拘束されていました。助けてください」

一気に言った。ここで室内の空気が変わった。今日が何日か聞いたら、最初に男と待ち合わせした日から、一週間目の朝だということがわかった。警官が応援を呼び、あたしの事情は女性警官が聞くことになった。一緒に逃げてきた若い男には、同じように若い男性警官が付いた。それぞれに、違う小部屋に通された。

女性警官に、今日まで見聞きしたことを隠さずに話した。あたしは堰を切ったように、話し続けて、ふと自分の全身を見ると、そこらじゅう汚れてドロドロだった。あの若い男と逃げてきて、お財布も携帯電話も持っていなかったし、それにしてもよく靴も履かずにこれだけ走れたものだ。

時間が経ってみると、足はガクガクだった。何日も、歩くことも許されず抑圧されていると、人間の機能は衰える。今考えてみると、捕まった女性たちは逃げる気力も失くしていたのだ。

決して自慢できる話ではないが、どんなときも自分で嵌まってしまった罠ならば、自分で這い出てくるという気持ちを強く持っていたい。調書を取られて、女性警官が病院に付いてきてくれた。ひととおり検査をして、明らかに人体に有害なものは検出されなかった。

「もう懲りたでしょ。普通に奥さんしているのがいちばん幸せなのよ」

女性警官が言った。あたしはその言葉に納得できなかった。でも、わからんちんの両親に会いたいと強く思った。あたしが監禁されて七日間、そのあいだ、捜索願いはどこからも出ていなかった。