5 企業における人材育成の対象は未だ正社員

前段で紹介したように不公平感を是正する政策が打ち出されていますが、国がめざす「全員参加型社会の実現に向けた個々人の職業能力開発」を推進するには、企業における人材育成に多くの課題があります。

日本の人材育成は従来、一部の外資系企業を除きこれまで日本独自の新人一括採用と終身雇用システムのもとで、正社員対象かつ、新人―中堅―管理職層といった階層別に行われてきました。そうすることで企業風土に同質化できる人材を効率的に育成できたのは事実でしょう。

しかし非正規雇用労働者数が労働人口全体の約40%に迫るなか、人材育成の在り方にもひずみが生じています。

「令和2年度職業能力開発調査17」によると、正社員または正社員以外に対して令和2年度にOFF―JTを実施した企業は69.8%であり、その内訳を見ると、正社員と正社員以外の両方に対してOFF―JTを実施した企業は27.2%、正社員のみに対してOFF―JTを実施した企業は40.9%、正社員以外に対してのみOFF―JTを実施した企業は1.7%でした。

またOFF―JTの実施状況を職層等別に見ると、その割合は正社員の新入社員が56.7%、中堅社員52.4%、管理職層が45.5%となっており、一方正社員以外は29.0%だったとされています。

つまり調査結果から、3割ほどの事業所がOFF―JTを実施しておらず、実施している企業においても、約4割は正社員のみを対象に実施しているということがわかります。OJTについても傾向は同じです。

令和2年度に計画的なOJTを実施した企業は全体の59.4%でした。正社員または正社員以外の両方に対して実施した企業は19.4%、正社員のみに実施した企業は37.1%、正社員以外に対してのみOJTを実施した企業は2.9%でした。つまり約4割の企業が計画的なOJTを実施しておらず、実施している企業についても4割弱は正社員のみを対象に実施しているのが現状です。

また同調査では、企業が抱える人材育成の内容についての課題についても触れています。まず能力開発や人材育成に関して、「何らかの問題がある」と回答した企業が74.9%にものぼります。

具体的には、上位に「指導する人材が不足している」、「人材育成を行う時間がない」、「人材を育成しても辞めてしまう」などが挙げられています。さらに、労働者のキャリア支援については、キャリアコンサルティングを行う仕組みを導入している企業は全体の38.1%です。そして内訳は、正社員と正社員以外の両方に対して導入している企業が22.5%、正社員のみに導入している企業が15.1%、正社員以外のみに導入している企業が0.5%となっています。

一方で、キャリアコンサルティングを行う仕組みを導入していない企業が61.4%で約6割を占めています。

※本記事は、2022年4月刊行の書籍『リーダーのための動機づけ 面接実践編』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。