「少し走ろうか。久しぶりだろうこのグラウンドで走るのは」関山先輩だ。

グラウンドを見た。あの一面に敷き詰められていた芝は見事にもう無くなっていた。寂しかった。来年の三月にはこのグラウンドは無くなるのか?

俺はラグジャーを着てグラウンドに出た。柔軟体操をしてランパスを始めた。この顔ぶれがそろうのは何年ぶりだろう。高校を卒業して二十八年ぶりだ。しかし、ついこの前のことのようだ。

炎天下の中、がむしゃらに走った高校時代。今とは違い、練習中に水を飲むことは許されていない時代だった。倒れればすかさず先生からケリや平手が飛んできた。苦しい練習を一緒にやってきた仲間たちだ。二十八年のブランクはパスを受けとった瞬間に、埋まった。

一本目、二本目と軽めのランパスを続けながら、昔話に花が咲いたが、しばらくすると現実が待っていた。

……息が上がった。走れない。

「ちょっと待った。どうして皆走れるの。そんな腹をして」俺も多少鍛えているつもりだったので、もっと走れると思っていた。草野球でも、盗塁で走ったりして「走れるおやじ」を自負していたが、やはりラグビーは違う。

「俺たちも最初、そんなもんだったよ。だけど何度かやっているうちに走れるようになってきた。何度か練習に来れば走れるようになるさ」と沖が言ってくれた。

「無理するなよ」。井村先輩からやさしい声がかかった。不思議だった。ラグビーの練習でやさしい声をかけられるとは考えていなかった。

「基本は楽しく無理せず、ケガをせず、だ」と上床先輩だ。

「皆、仕事を持っている。家族がある。無理してケガをしてはダメだ。続けられない。今の自分で出来る範囲でやればいい」

そのとおりだな。少しずつ走れるようになろう。少し休みながら、久しぶりのラグビーを楽しんだ。