第一章 トップ会談と候補者擁立

「武藤さん、この数字は何かな?……」と資料に目を落とした山脇が訊ねると、

「ああ、二八という数字ですか? それは我々がこの国のシンクタンクとして、政府に提言した件に対して、曲がりなりにも何等かの検討らしき事が行われた数字で、八〇八という数字は我々が魂を込めて行った提言をダイレクトメールを開封さえしないで、恰もごみ箱に捨てる様に扱われた提言の数です」と武藤亜希子が苦々しげに答えてみせた。

「この国の政治家の感度が劣化している事を如実に物語っているとも言えるなぁー……嘆かわしい事だ」と肩を落とすように山脇が言った。

「……先生、先生が黙認して下さるなら私今の政治家達に与野党を問わず、私達ならではのお仕置きを企ててみたのですが、聞き流した上で黙認して頂けます?」

「おい、おい、物騒な事考えてないだろうね。……君は紳士・淑女の集まりの研究所の理事長なんだから、物騒な考えは禁物だぞ!」と山脇らしい口調でくぎを刺した。

「うーん、物騒ではないけど……ちょっと過激かも?……」と武藤が思わせ振りに言った。すると痺れを切らした山脇が、

「分かった、もったいぶらずに話してみなさい」と武藤を促した。

「これまで、私達の研究所は間違った歴史認識や数字が一人歩きした事柄を史実に基づいて質してきました。一例を挙げるなら、「南京大虐殺」等二〇万人が殺害されたとされていたものが、国の指導者が変わると三〇万人と一〇万人も増えた事に違和感を覚え、詳細に調べ上げ、真実を炙り出してきました。

日本政府が加害的立場にある為、反論する事に躊躇(ためら)いを抱く中、研究所という立場で真実を追求し、事実を公表してきました。未だ解決を見ない拉致事件に関しては、「救出会」等の集会に私は積極的に参加して、国民に広く関心を抱いて貰うべく、活動してきました」

と言ったところで山脇が、「君の真摯な活動には私も敬意を払っているよ」と合いの手を入れた。