父が来て、初めて幼稚園に登園する朝、私は息子に”はじめてのおつかい”を仕掛けました。

「じいちゃんを案内して幼稚園に行けるか?」と聞くと、「うん!」と息子は元気よく私の提案に乗って来ました。『チューリップ教室』で何度も歩いて通った道。2人で行ってくれるようになれば、その間に私は家事ができる! 何しろ父は昭和一桁生まれ。専業主婦の母に家事一切を任せて働いてきた元企業戦士ですので、”息子と一緒に居てもらうこと”以外は、あてにはできませんでした。

ベランダで洗濯物を干しながら、元気に歩いて行く2人を見送ってしばらくしてから、自転車で後を追ってみたのです。幼稚園まで2人の姿は見掛けませんでした。父は送り届けてそのまま図書館にでも行ったのだろうと思い、門に立って園児を迎えている先生方に声を掛けました。

「おはようございます! 息子、来てますか?」

すると、先生方は笑顔で「まだですよ!」と……

「え~!」

猛スピードで自宅に引き返し、再び園までの道を脇道も見ながら辿ってみますが見当たりません。真っ青になって自宅に戻ったところに、泣きじゃくる息子を連れて困惑しきった父が戻って来たのです。幼稚園の場所を知らない父が、途中で「本当に幼稚園はこっちか?」と問い続けても頑として、「こっちだ!」と言って歩き続け、ついには泣き出してしまった……とのことでした。

どうやら彼は、園とは反対方向のバス停に向けて歩き出してしまったようでした。恐らく、父が神奈川に帰るものと勘違いしてバス停に送って行こうとし、途中で気付いて引き返さずに幼稚園に行こうとしたのですが無理だったのでしょう。2人には大変な想いをさせてしまいました……

その後、息子は父と2人での登園をトラウマのように引きずり、結局毎朝3人で歩いて幼稚園に行く羽目になってしまったのです。

※幼児にチャレンジさせるには、”本人がやる気であること”が大前提ですが、本人が「やる」と言っても、”チャレンジの内容がしっかり理解できているのか?”

この確認は非常に重要です。

※本記事は、2022年7月刊行の書籍『子どもがおつかいに行ける社会』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。