アメリカとロシアの禁酒事情

皆さん、アメリカのハリウッド映画「ゴッドファーザー」をご覧になられたでしょうか。マーロン・ブランドがマフィアファミリーのドンを演じていました。その息子役のアル・パチーノもいい味を出していましたね。

この映画は、第二次世界大戦が終わった直後のニューヨークを舞台にしたマフィアの組織間抗争を描いた作品ですが、世界大恐慌が世界中の経済を大混乱に陥れた二十世紀初めころに、アメリカ・シカゴの闇世界に君臨したギャングの大ボス、アル・カポネをヒントに制作されたのではないかと、俄か映画評論家(←私のことです)は考えています。

アル・カポネは、いわゆるアメリカの「禁酒法」(アメリカ合衆国憲法修正第十八条)が施行された時代(一九二○年から一九三三年)に、北中部のシカゴを中心に勢力を拡大したギャング組織の大ボス。修正第十八条は酒類の製造・販売・輸送・輸出入を禁じる法律ですが、カポネは法律の条文と正反対のことをやって、莫大な財を築きました。カポネはシカゴの市長や警察までをも抱き込み、巧みに賭場と闇酒場を支配したといいます。

さてその禁酒法の効果はどうであったかというと、法律を定めて飲酒を禁じようとしても、酒を飲もうとする人は後を絶たず、かえって酒の需要が増大したというのですから、まったく皮肉なことです。おかしなことに修正第十八条の条文には、肝心の「飲酒を禁ずる」とはひとことも書かれていないのです。まあ、酒を造ることを禁じてしまえば酒が手に入らなくなるわけですから、飲酒禁止を条文に明示しなくてもよいと考えたのでしょうか。私に言わせれば、どうも最初から逃げ道を作っておいたのではないかと疑りたくなります。事実、この法律は施行当初から平然と無視され続けられたというのですから驚きます。

お金持ちは法律が施行される前に、スコッチやワインなどありとあらゆる酒を買い占め、法律が施行された後も平然とそれを飲んだといいます。飲酒は禁じられていないのだから、飲んでも別段法律に違反していないというわけです。

そこまでできなかった庶民は、家庭で手軽に入手できる砂糖から、秘かに酒を醸造したということです。これは製造を禁じた法律違反になりますが、どこの家でも密造を繰り返したがゆえに町の商店から砂糖が消え失せたとも伝わっています。

結局、悪徳と犯罪のない理想の社会を作ろうとした敬虔なキリスト教を信奉する一部の団体の思惑は見事に外れてしまいました。街中を歩く酔っ払いは減ることなく、逆に家庭内不和と暴力が増え、ギャングがはびこるだけの結果を招くことになりました。世の悪徳も犯罪も決してなくなりはしなかったというわけです。

※本記事は、2022年8月刊行の書籍『酒とそばと』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。