【前回の記事を読む】【実録】手術した子供からの電話.…退職した医師が涙したワケ

きらめく子どもたち

小児外科医の一生では、たどり着けないとしても……

今年は小児外科のスタッフが増え、夏休みに一人や二人が休んでもやりくりできる陣容になったので、にわか教授は優雅な夏休み……と、家内と二人、温泉でまったりしていたときに携帯が鳴りました。病棟からです。慌てん坊の看護師さんからの間違い電話かと思い耳に当てると、スタッフの石井先生からでした。

「明後日に癒着性腸閉塞の手術を行いたいのですが……患者さんは小児科のX先生なんです。お子さんじゃなくて、ご本人の手術なんです。X先生は成人内科に何回目かの入院をされ、その流れで成人外科に紹介されたのですが、本人は小児外科の宮本先生のところでの手術を望んでいます。成人外科も納得してくれました。夏休みに残っている小児外科医二人ででも手術はできると思うんですが……」

う~~む、よりによってX先生とは。

ホテルの部屋の天井を見上げ、昔から順に彼との記憶をたどり、ふたたび携帯を手にしました。

「石井先生、手術は何時からだい? そうか、それなら当日朝五時にこちらを出発すると間に合うので、宮本も手術に入ります」

この手術に入らずに温泉に入っているなんてことはできません。人生には温泉よりも大切にしなければならないことがあるのです。