お餅で食べる

その後、青森の大学へ移りましたが、転勤した理由のひとつは、もち小麦研究拠点である東北農業研究センター(岩手県盛岡市)が近くにあり、もち小麦の発展に貢献したかったからです。

そして、異動後数年が経ち、谷口義則先生により栽培適性にすぐれた後継品種『もち姫』が生まれました。『もち姫』を研究材料に研究熱心な大学院生と、もち小麦の食べやすさについて食味調査研究を行いました。

結果としてもち小麦が高齢者にとって食べやすく、飲み込みやすいことがわかりました。また、食べやすい理由を、もち小麦は食べてから飲み込むまでの過程が優れているためと考えました。それを明らかにするため、健常な成人に、もち小麦餅とお餅(もち米)を別々に食べていただき、飲み込むまでの過程を“嚥下内視鏡”で観察する共同研究を行いました。

食べてから飲み込むまでには、図表1のような5段階の過程があります。私たちは無意識に摂食嚥下の5期を行っており、たまに話に夢中になってむせています。

[図表1]食べて飲み込むまでのプロセス(摂食嚥下の5期)

そして嚥下内視鏡による飲み込み状態の観察から、お餅(もち米)の場合は、粘着性があって噛かみ切りにくく、塊のまま飲み込まれる傾向がありますが、もち小麦のお餅の場合は、うどんを食べるときのように、無意識に噛んで何分割かしており、また粘着性が低いため、(のど)にくっつきにくく、食道に入ってからも、空気の通り道を確保しつつ食道から胃へ送られるものと考えられています(図表2)。それを、もち小麦のお餅を食べた方は、“食べやすい”と総合的に表現されているようです。

[図表2]もち小麦餅を食べるプロセス(イメージ図)
※本記事は、2022年7月刊行の書籍『日本で誕生!もち小麦』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。