おとなになってから私は、ユーカラ絵本を描きました。
「こたんこるかむい」と云います。しまふくろうが、貧しい村・コタンを守るために、自分の命をかけるおはなしです。
この絵本は、たくさんの人々から反響を頂き、愛のために命を燃やし尽くしたふくろうを讃え、誉めて頂けたのが、私は嬉しくて泣きました。
こたんこるかむいは、私の兄、礼之助でもあるのです。
七十七年前の昭和二〇年三月四日の朝、東京が燃えた。
渦巻く火の海の中で私は迷子になりました。
兄が、火柱になって燃えるわが家に、踊り込んだのは、アッと言う間でした。
私の名を呼んで、何度目か。爆発音と共にその声も吹きとびました。兄は心臓を貫かれたのです。13才になったばかりでした。
ちよと呼ぶ声も、きっと幼なかったでしょう。今も残る、焼け焦げた制服は胸から背に抜けています。
兄は私の中で、今も少年のままで生きています。
あの日以来、八十歳を超えた今も三月はつらい月です。
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※本記事は、2022年7月刊行の書籍『花と木沓』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。