週末 ほとんど試合の日々

母の日なのに試練 でも素晴らしい経験(続き)

その後のおかんが主審をした試合は、いよいよ雨が強く降ってきて、夕方になり気温もぐっと下がり、薄暗さを感じられるようになってきました。

環境が悪くなりましたが最終戦です。その状況に覚悟を持って臨んできたチームですから、選手たちのプレーを最高に引き出すため、精いっぱい審判をすることがおかんの務めです。

うちのチームが第1試合でボロ負けしてしまった対戦相手のチーム(つまり絶好調のチーム)と、小学5年生主体の調子の良くないチームの組み合わせでした。

スコアはともかく、どちらも気持ちの入った良いゲームになっていましたが、前半終わった時点で、本当に寒くなってきました。

動いている選手たちはちょうど良いかもしれないけれど、控えの選手がこのまま耐えられるか、審判として気になるところでした。

サッカーの競技規則の日本語版付録には、『サッカー活動中の落雷事故の防止対策についての指針』というページがあり、基本的指針の一文に、

「特にユース年代~キッズ年代の活動に際しては、自らの判断により活動を中止することが難しい年代であることに配慮しなければならない」

という内容があるのです。また、競技規則第5条の1.主審の権限には、

「各試合は、その試合に関して競技規則を施行する一切の権限を持つ主審によってコントロールされる」

とあります。

本日は雷の予兆はありませんでしたが、雨による選手の体調が気になる天候で、ハーフタイムにこのまま試合を続行するか前半終了をもって試合を中止するか迷いがあって、大会本部に相談にいきました。

すると、本部のボスが実はいま試合をしているチームの監督だとのこと。そこで、ハーフタイムで選手たちに指示を出している最中のベンチに行って、本部のボスに聞きました。

「選手の安全と健康を考えると、試合を続行するか前半で終了するか迷っています。どうしましょうか?」

すると、その監督は選手たちに聞きました。

「どうする? このまま続ける?」

すると、選手たちは、迷いなく、まっすぐな目で、

「まだやりたい!」

「もっと続けたい!」

と口々に言います。

このチームは圧倒的に負けているのに全然闘志は消えていません。

正直、おかんは感動しました。

「控えの選手の低体温症に気をつけてください」

と言うと、選手の体が冷えたら屋根のある場所へ退避させます、という返事でしたので、そのチームは続行OKでした。そして、対戦相手にも同じことを聞くと、そちらも選手たちが口々に、

「続けたい」

という意向を示して、雷の心配はなかったので、後半も続行することにしました。控え選手の体が冷えたら屋根のある場所に退避させるなどの対策も考慮して。

大雨のなか、後半の20分間。圧倒的に負けているチームも、ずっと負けているわけではなく、1点を奪いました。また、強いボールがみぞおちにあたって倒れている選手を、相手チームの選手が労っているシーンもありました。

試合終了時、大雨で一刻も早く終了したほうが良い時間でしたが、両チームの選手たちにグリーンカードを出さずにはいられませんでした。

グリーンカードとは、日本サッカー協会が12歳以下の選手の大会を対象にフェアプレーを推進するために導入しているカードで、審判がフェアプレー精神を発揮した選手に対してグリーンカードを示します。

「雨でずぶ濡れになりながらも、最後まで闘志を切らさず闘い続けた」

とすべての選手たちにグリーンカードを贈りました。

本降りのなかの審判、大変でした。でも、きちんと審判として職務を全うした満足感、雨のなか頑張ったすべてのチームの選手たちの姿、そして負け続けた2試合を最初から最後まで淡々とだけど最後まで走り切った自分の息子の姿、十分満足感を得られました。

カーネーションの花をもらってもあまり嬉しくなくて(酒とかステーキ肉だったら大喜びですが)、花を早くに枯らしてしまうおかんにとっては、今日のような素晴らしい経験のほうが嬉しい母の日のプレゼントになりました。

いつも自分にとって都合よく解釈するのですが、今日はうちのチームの子たちと、審判を担当したチームの選手たち、皆さんから母の日のプレゼントをもらったと思っています。

※本記事は、2020年6月刊行の書籍『グリーンカード “おかんコーチ”のサッカーと審判日記』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。