ハムレットは、下手奥に走り去る。

音楽(「心弱きもの、汝は女」)が消えると、

ホレーシオと侍女が、舞台上手、下手より走り出る。

 

ホレーシオ 亡霊が現れた 真夜中の城壁に

侍女 亡き王様の亡霊が 明かされた

ホレーシオ 恐ろしい秘密を!

侍女 ハムレット様に 明かされた 死の秘密を!

ホレーシオ 『お前の父を噛み殺した蛇は、いま王冠を戴いている。言葉巧みに妃を惑わせ妻に娶った。命も王冠も后までもいちどきに実の弟に奪われたのだ。お前が父を愛していたなら、極悪非道な殺人に復讐せよ!』

侍女 『庭園での昼寝は、いつもの慣わし。お前の叔父がこっそり忍び寄り、ヘボナの猛毒をこの耳に注ぎ込んだのだ。』

ホレーシオ 『これを聴いて奮い立たないなら、忘却の川のほとりに根を張って肥え太る雑草にも劣る。さらば、さらば、父の言葉を忘れるな!』

侍女  ……恐ろしい秘密。ハムレット様は、ご親友には打ち明けられ、ホレーシオ様はご存知でした。けれど、オフィーリアさまは、それを知らずに垂れ込める厚い雲の下で、ひとり顔を曇らせていたのです。

 

舞台の明かりが弱まる。ホレーシオと侍女は、舞台中央奥の椅子に腰かける。

音楽(「王子さまに、何が……」)。

舞台の明かりが強まる。オフィーリアが後ずさりするように現れ、正面に向き直る。

 

オフィーリア  縫い物をしていたの お部屋で 王子さまがいらしたの 目の前に

帽子もかぶらず 上着の胸もはだけたままで お顔も真っ青

わなわな震えられ 地獄から抜け出して 私に会いにいらしたように

手を差し伸べたわ 思わず

王子さまはギュッと強く 握られて

私の顔を じっと見たまま 手をゆすられて

三度もうなずき ようやく手を放された

肩越しに 悲しげな 目を向けたまま 出て行かれたわ

音楽(「王子さまに、何が……」)が消えるとともに、オフィーリアは上手に立ち去る。

音楽(「生きるか、消えるか」)。ハムレットが下手から現れる。

ハムレット  生きるか 消えるか ……問題は そこだ

生きる…… 消える…… 生きる…… 消える……

生きる屍 命を絶てば 神の掟で罰を受け

父の仇(かたき)の 命を取れば 神の掟で罪びとに

ああ はびこる雑草 荒れた庭 わがデンマークの 今の今

生きる…… 消える…… 生きる…… 消える……

悪行に 見て見ぬふりを 決めこむか

悪行を 見てたたかいに 踏みきるか

ああ 迷える小舟 荒れた海 わがデンマークの 今の今

生きるか 消えるか ……問題は そこだ

※本記事は、2019年8月刊行の書籍『雪女とオフィーリア、そしてクローディアス』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。