その数日後、原田は、会社の帰りに、異能クラブの本部のある場所を訪ねた。五月というのに、妙に蒸し暑い夕方であった。

それは、五階建ての雑居ビルの三階にあり、原田は三階まで細くて薄暗い階段を上ると、額には汗が吹き出していた。汗を拭きながら見ると、鉄製の扉には、「夜街新聞社」とあった。どうも、業界新聞を発行している所らしいことが分かる。そして、その下に、「異能クラブ」という札も貼ってあるのが分かった。

原田は、おそるおそるそのドアを開いた。その中は、だだっ広いところに、いくつかの机とパソコンの並んだ雑然としたオフィスで、横の方に応接用のソファがあった。そこに三人の中年男性が座っていた。そして、みんな一斉に原田を見た。

そのうちの一人が口を開いた。

「どちらさん? 風俗店の情報聞きたいの? 夜街新聞にご用の方?」と聞いたのは伊能である。

「いえ、異能クラブってあったので、うかがったんですけど」と、何か場違いの場所にきたような後ろめたさを感じながら、おそるおそる原田が切り出すと、ソファに座っていたうちの一人、神谷仁が、「えっ、あんた、何かの能力者なの? 何、何、何の能力があるの?」とたたみ掛けてきた。

「いえ、能力と呼べるほどのものかは疑問なんですけど」と言うと、神谷は即座に、「そんなの、みんな同じだよ。ほんとの超能力者なんてここにはいないんだよ」と答えた。

もう一人の男、大仏聡から、「いいから、まあ、座れ」と言われて、原田はそのソファの前のパイプ椅子に腰を掛けた。

大仏は大きな身体から低い声のゆっくりとした口調で、「で、何ができるの、あんたは?」と問い掛けた。大仏の静かな話し方を受けて少し緊張が解けたようで、原田は、少し恥ずかしそうに、トイレに行ったことがにおいで分かることを話すと、みんな真剣な表情で聞いていたが、神谷がまず口を開いた。

「ほんとに、つまんない能力だな、そりゃあ」

そう言われて原田は、顔が熱くなった。

「でも、そんなのを求めてるんだよ、我々は」と伊能はフォローする。

そう言われて、原田は、ようやくちょっと安心した。そして、今度は原田から質問をした。

「みなさんは、どんな能力をお持ちなんですか?」

神谷が答える。

「そりゃあな、みんな、それぞれ、つまんない能力者なんだけど、それをみんなで、何かに使えないか、役立つことはないかって、考えてるんだよ。そういう集まりなんだよ。今んとこ、どれも使い道が分からないんだけど、それを話し合うことで、お互いに癒しあってるのかなあ」

伊能は、「今度、集会があるんだよ。そこで集まって、みんなで話するから、そん時、また来な」と話した。

そう言われて、何か、少し心が軽くなった気がした原田であった。

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※本記事は、2022年6月刊行の書籍『異能クラブ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。