序章 熱き想いは運命(さだめ)に流れ

見えぬざわつきいつも聞こえる、何だろう、暗闇の中それは日に日に増してゆき私に聞こえる音のほとんど全てになる。或る日見たことのない明かりが遠くに見え、だんだんと近くまた遠くになりしながら、そしてとうとう全てがまぶしく不思議の世界に……私の誕生。

私の周りに居る人達、お母さん、お父さん、見知らぬ女の人2人、多分私を迎える人全て。なぜか静かでお母さんのすすり泣く声が……私が暗闇で聴いていたのと同じ音。

もうその時から私と産みの母との別れは決まっていたのだ。

ここからの話、物語は実父、養母、数少ない血縁・知縁の人からの嘘か誠かの話をつなげ、私自身の心と体で体験し起きたことに解放を与えてやる為のセレナーデ。この話の終焉を迎えられる時が訪れ、私に残された命に新しき誕生の日を迎える為に。両手を思いっきり広げて飛び立たさせてやりたい自分の為に全て書き尽くしたい。

誕生の瞬間など知り様もないはずを、来きした私の人生の起点と思えるのは、この後始まる憶えのある出来事の初めからの答えと思うからに他ならない。私の誕生、母の乳房にすがる日々はあったのか? 入籍はもちろん認知もされぬまま他人の子に。

父から聞かされた、私を残していく母と姉との別れの日、オレンジ色の夕陽に照らされ影絵の様な二人の立ち去る姿、忘れることは無いと、大人になった私は知らされる。

父は云う、会社に行く時おんぶして行ったぞ、オムツも替えたぞ、それでもいつもそうはいかなかったと。或る日帰ると私はいなかった。一人でどれだけ探し、周りに問いただしたかと……。

聞かされたこと……大学を出て働きだした男が一人で育てられるはずも無い、父の継母も自分が気に入らず追い出した女の“産んだ子”など抱きたくも、まして育てたくも無い。運命は決まっていた、養女に出すと。毎日私を探し求めたと父は云う。

あまりの様子に或る日連れ出されたのはとある公園。そこには私を抱く養母、寄り添う養父の3人の姿、幾度となく見た3人の姿は自分にはできない家族という絆、現実を知らなくてはならない切なさだったと。あきらめと共に、持参金をつけられ私のこれからは、かの夫婦に委ねられた。