毒母

清美が家に入ると、母・道子が茶の間でぶよぶよと膨らんだ体を横たえ、くつろいでいた。

髪は起き抜けのまま逆立っているし、化粧も施されていない。道子が髪を整え、化粧をするのは何処かへ出かけるときだけで、夫・栄介に申し訳ないなどと思ったことのない女である。

清美が事情を説明し始めると、それには耳を貸さず、「あら、泥だらけじゃないの」と道子は金切り声で清美を咎とがめ始めた。

「本当にドジな子ね。よくもまあそんな格好で帰って来られたものね。ああ、恥ずかしい。情けないったらないわ!自分で洗いなさいよ。ああ、嫌だわ!」

道子の清美への叱責は何時までも続く。清美は、しばらくうなだれて突っ立ちながら、金切り声に耐えていたが

「早く着替えて、洗いなさい!」

という道子の声に飛び跳ねるようにして、2階に上がって着替えを始めた。

そして、泥で濡れた制服からやっと解放されて、ほっとしながらも溜息をついた。

(この家の辞書には“同情”という文字はないのよね)

清美は汚れた制服を洗った。幸い、制服には多くの化繊が含まれていたので容易に洗うことが出来、ほっとした。

(でも……)

と、清美は暗い気持ちで幼い頃のことを思い出すのだった。