1

私も収穫あったかな、一応……とつぶやいて頭を振る。だめだ、私は私情を挟んでいる場合ではない、と気持ちを仕事モードに切り替える。それでも、今回は純粋な参加者としてここに来たのだから私情ばかりでもいいはずでは……? それなのに仕事の影がちらつくとは、私は余程引きが悪いのだろうか。

上司である成瀬からのメッセージは、余裕があれば、という枕詞付きのメールではあったが、事件の香りを漂わされて私が純粋にパーティーを楽しむことなどできないタチであることをわかっていながら言っている。明らかに確信犯である。溜息を吐き出しつつ携帯を確認したところ、ちょうど着信があった。

「今どこだ。会えるか」

「建物前で友達と別れたところです」

「よし、建物裏にいるから来てくれ」

「了解」

私は言われた通りに裏に回り、すぐに目的を見つける。滑り込むように車両に乗り込んだ私に早速、成瀬リョウが軽口を叩いてきた。

「ずいぶん楽しそうだったじゃないか。お酒も進んだようだし」

「当初は仕事で来たつもりはありませんでしたから。それにしても、成瀬さんも鴨のスモーク、楽しんでおられましたね。それに、あの紺色のワンピースの女性に気に入られたようで」

言い返すとムッとされる。嫌なら、自分からふっかけるのをやめればいいのに。ところが、

「トイレの前でぶつかった男も、なかなかのイケメンだったよな」

と、仕返しをしてくる。いつの間にあそこにいたのか、全く気付かなかった。私の視野もそれほど狭くないと自負しているが、この上司の敏さには敵わない。私の所属する組織は全国的にも少なく、その規模で業務をこなしていることからまさに精鋭たちの集まりなのだな、と改めて実感する。目を開いて言葉に詰まる私に成瀬は追い打ちをかけてきた。全くの負けず嫌いである。

「『綺麗な人だったな、まあ、俺には関係のないことだけど』とつぶやいたことには気付いていたか?」

「え?」

「ほう、気付かなかったのか、ご愁傷様」

「私だって、あの男性とは関係もないし、興味もありません」

と言い返すと、自分でふってきておきながら急に仕事モードになる。

「そんなことはどうでもいい。何かわかったか」

人気のない道を、闇に溶け込むかのように黒塗りのワゴンは徐々にスピードを上げながら走り抜けていった。