一方、入院時の二男はかなりくじけて弱々しく、仕事の限界を感じていたようです。退院後も行けなくなり辞職を決めました。夫の入院中のあっという間の出来事でした。しかし、病院へ逃げる判断も退職判断も、二男の本能的措置(?)で、再発を自ら防いだのかもしれません。そして……

後から分かったのですが、あのドサクサの入院中に歌を作ったというのです。その曲は『ぶきっちょブギブギ』。「♪……何を言われても鈍感鈍感、余った材料でトンカントンカン、懸賞当たれと投函投函、のんびりしすぎたあかんあかん……♪」とダジャレた歌詞が続きます。

自虐的? と思いましたが、二男の底にある明るさとも取れます。親の気も知らないでと腹も立ちますが、笑えます。

このように、緊張状態を強いられたときや大事なことは、他者に(家族にも)話せなくなります。心の中を表現できません。主治医に教わった「お願いやお断り」が言えるようになれたらなあ……。コミュニケーション能力や、生活技能訓練の必要性を感じました。そこでオープンしたばかりのミューズラボ(就労移行支援事業所)にたどり着きます。

当初、二男にはなぜここに行くのか分からなかったと思いますが、通うにつれて居場所のようになっていきました。スタッフと利用者がともに生活するといった雰囲気で、利用者の提案を取り上げてみんなでやろうというところが、二男に合ったのだと思います。

言われたことをさせられるよりも、自分のしたいことを見つけて実行するのは大変ですが、二男は少しずつ積極的に参加し、意思を表明するようになっていきました。

ラボの仲間に自作の歌まで合唱してもらうようになったり、まだ掛かっていない看板をみんなで手作りする際には、材料を家から運んだり、絵の得意な子を中心にシャッターアートをしたり、習字や絵手紙(病気の父宛)を書いたり、料理をしたり、外部の人を招くオープンラボで活動を紹介したり、個別活動とともに、仲間でやることも重視していました。自立と協力、共生は、どんな小さな社会の単位でも大切な力です。

※本記事は、2021年12月刊行の書籍『なかむら夕陽日報【文庫改訂版】』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。