地デジが届かない(2010年12月)

11月下旬のある朝。北海道新聞の朝刊に「地デジ2878世帯間に合わず」という記事が。内容を読んでみると、来年7月24日の地上デジタル放送完全移行時に受信施設の整備が間に合わず、地デジ電波が届かない世帯が道内で少なくとも2878世帯ある、というような記事であった。

わらび野の山奥に住んでいる僕は、前々から周りの友達などから「お前ん家は地デジ電波届かねえんじゃねえの(笑)」とからかわれていたが、「東野のいとこの家でも届いているんだから、俺ん家にだって電波くらい届くべやあ!」と笑い返していた。

この新聞の記事を読んだ時も、全く自分とは関係ない他人事のようにとらえながら、その日もビートの収穫作業のために畑に出かけて行った。

畑に出て、ビートを手作業で掘り返していたら、間もなくして、家の方からお客さんらしき人が歩いて来た。作業着を着た中年のおじさんだ。そのおじさんは「地デジ推進協議会の者ですが」と言ってきた。「実は、冨田さんの家は地デジの電波が届かない難視聴地域なんです」と言うではないか。そのおじさんの話は、まさしく今朝読んだ新聞記事と全く同じであった。

地デジは一定程度電波が弱まると全く映らなくなる性質があるため、アナログ放送は視聴できても地デジは映らない「新たな難視聴地域」が発生。山などの障害物で電波が届かない山間部を中心にこうした難視聴地域があり、これらの地域では、共同受信施設や各世帯での高性能アンテナ設置を進めているが、山地での施設建設が難航したり、費用負担について住民の協議がまとまらないなどで、少なくとも613地域、2878世帯が地デジ完全移行までに間に合わない見通しだという。

そのうちの1軒に我が家が該当してしまったのだ。

それでは、家ではもうテレビは見られないのか? と一瞬ビビってしまったが、対策として、対象をこうした地域に限定して「地デジ難視対策衛星放送」というものを行うという。これは、東京キー局の放送を難視聴地域に限定して衛星で電波を張り、テレビが映るようにするもので、2015年3月末までの暫定的措置。受信に必要なアンテナなどは国から無償貸与されるし、地デジ対応テレビでなくても、これらの地域では2015年3月末までは映るため、とりあえずしばらくの間はテレビを購入しなくてもよくなった。

しかし、難点もある。東京キー局からの電波であるため、ローカル放送は見られないし、天気予報なども東京周辺の関東のものになってしまうのだ。こうした事態に視聴者からは不満や批判も出ているそうだ。

この地デジの件にしてもなんにしても、最近の国の施策の多くは、どうも拙速すぎて議論を深めないまま実行してしまい、後で問題が発生してからつけ焼き刃的に対応したり、もしくは予定していた計画を変更・中断したりしてしまうということが多すぎる。

我々農業者の関係事案でいえば、戸別所得補償制度はいざ始まってみたらいろいろと問題だらけの欠陥制度であるし、いきなりTPP参加を打ちだしたりするなんてのは反発を招くのは当然で小学生でもわかることだ。他にも、子ども手当や高速道路無料化の話はコロコロ変わるし、全く話がわからない。日本の政治家はやはり無能だらけなのだなと思う。

12月頭に我が家に工事が入り、テレビ放送が衛生受信に切り替わった。現在の我が家のテレビ内容は東京都民と一緒であり、タレントのI氏が元気な声で我が北海道とは全く関係ない関東地区の天気予報を得意気にやっている。そんな我が家では今日も『どさんこワイド』(札幌テレビ放送毎週月〜金曜日15時48分〜)が見られない寂しい夕食を囲んでいる。

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※本記事は、2022年4月刊行の書籍『山奥の笑顔百姓』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。