またこの季節がやってきた、と高取はため息をついた。毎年春先になるとカラスが巣作りの材料を集めるため、ゴミ集積所の荒らしかたがひどくなるのだ。つまり生活環境課への苦情が増える。特に山北東の開発が始まって以来、森のカラスが移動してきたのか年々ひどくなっている。何かカラス駆除のいいアイデアはないものか、と思案していると、吾郷から誘いがあった。気分転換でもするか、高取は思った。

(さかずき)を重ね、高取はいつものように愚痴りだした。吾郷は慣れた様子で聞き役を演じている。今日の愚痴ネタはカラスだ。タイミングを見計らって、カラスと言えば、と吾郷は切りだした。

「週末に家族で山北にピクニックにいったら立花先生に会ったぞ」

「え、あの生物の?」

「そう」

吾郷は山北でのできごとの顛末を話した。高取は興味津々(しんしん)で聞いている。どうやら高取も高校時代、立花に興味があったようだ。

「相変わらずきれいだった。そうそう、今度の同窓会には顔をだすそうだ」

「本当か」高取が目を輝かせる。

「ああ。でも……」

「でもなんだよ」

「でも、お前をとっちめると言ってたぞ」

吾郷はそう言っていたずらっぽく笑った。

「ええー、なんで。なんで俺を?」

「山北だよ」

「山北?」

「そうだ。立花先生は山北のような貴重な自然を守るのが生活環境課の使命だ、と憤っていた」

「ひえー、そう言われてもなあ」

高取は途方にくれた顔をした。その様子を見て吾郷は吹きだす。

「トリ、実は俺も彼女のターゲットなんだ」

「そうなのか」

「ああ。だって元はといえば、許可を出した地域振興戦略部が主犯だからな。地域産業課にいる俺も同罪ってわけさ」

「そうだよ。そのとおりだよ、全く」

高取はレモンハイを喉へ流し込んだ。

【前回の記事を読む】「カラスを嫌いにならないでね。本当はとっても賢くて可愛いやつだから」

※本記事は、2022年3月刊行の書籍『濡羽色の朝』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。