疑問

翌週、吾郷は「山北地区開発計画」の関係資料を調べてみた。山北地区は以前、月城市の「自然緑地保全地域」に指定されていた。新人候補の佐分利(さぶり)が現職市長を破って市長に就任後しばらくして指定がはずされ、市の開発計画に基づき、公開入札を経て東地区が黒岩産業一社に売却された。通常、これほどの大規模な開発事業を一社単独で請け負うことはほとんどない。――何か特別な理由でもあるのか、吾郷は疑問を持った。さらに調べていると、

「吾郷くん。何調べてんの」

係長の佐木が声をかけてきた。

「はい。山北地区の開発計画です。わたしが入る前の案件であまり知らないものですから概要を知っておこうと思いまして」

「あーなるほどね。ちょっといいかな」

佐木は吾郷をパーテーションで区切られた一隅(いちぐう)へ連れていった。

「吾郷くん」

彼は吾郷を正視した。

「この案件はマル部なの。だからあまり首を突っ込まない方がいいよ」

「マルブ……ですか?」

「そう、部長専管案件ってこと」

「部長専管案件ってなんですか?」

佐木は穏やかながら、顎を引いてわざとらしく、おや困った、という表情を作った。

「あのね。平たくいうと表部長の指示がない限り誰も手をだせない案件ってこと」

「表部長しか扱えない……。そんなのあるんですか?」

「あるんだよ。わかったかな。銀行時代もそういうのあったんじゃないの?」

佐木の顔は穏やかだが、目は笑っていない。「あ、はい。わかりました」

吾郷は彼の表情からこれ以上の詮索はためにならないと考え、とりあえず了解の返事をした。佐木はにっこりと笑って立ち上がり、吾郷の肩を軽く叩いて立ち去った。席に戻って仕事を始めたが、佐木との話で山北開発に絡む疑問は疑念に変わった。

……高取なら何か知っているかもしれない。