兆し

珍目神社

吾郷は車で東地区との境にある珍目神社へ向かった。近づくにつれ、周囲とは明らかに異なる空気が漂う森が見えてきた。

「なんだか鬱蒼(うっそう)としてるわね」

「あの鎮守の森でよく遊んだもんさ」

吾郷は、肝試しをした遠い昔を思いだしていた。いざ着いてみると、ほぼ記憶のままの(たたず)まいだが、やはり荒廃は進んでいるようだ。

「なんだか気味悪い」

美南はやや(おのの)いた様子だ。視線の先には朽ち果てた社殿が見える。

「うわ、何これ。目玉かな」

優が守護獣の像を見て興奮している。

「この神社は珍目神社と呼ばれていたけど、昔から廃神社で何を(まつ)っていたのかわからない」

「ふーん。なんで取り壊さないの?」

「詳しくは知らないけど、昔このあたりが集落だった時代に、その目玉に救われたとかなんとか。でもみんなうわさ話で真実を知っている人間は誰もいなかった。壊したら祟りがあるんじゃないかと誰も手をつけないんだよ」

「へーえ。目玉ってスゴイ」優は無邪気に喜んでいる。

鎮守の森はかろうじて往時の姿を残しているが、いずれここも開発されるのだろうか。吾郷の胸には懐かしさと寂しさが入り混じって去来した。