雲と少年

彼はしゃべれなかった。私と話すときはいつも空書きかジェスチャーをつかっていた。土手の階段の半分ぐらいのところに二人で座り、空に向かって彼が人差し指で一文字ずつ言葉をかいていく。

ある夏の日、空に向かって、

「あ、い、す」

そう書いて私の方を見つめる。

「アイス……アイス食べたいの?」

と聞くと彼は首を横に振る。

彼の眼差しの先に私も視線を合わせると、そこには真っ白でモコモコと膨れあがったわた雲が浮かんでいた。

「あ~、ほんとだ、アイス……。ソフトクリームみたい!」

と私が思わず子どものような声ではしゃいで彼の方を見ると、うれしそうにニコッとはにかむ。

私は大きなソフトクリームの雲の下に右手をグーにしてコーンの部分を作り、空にかざした。

彼の方を見ると、彼は片頬をプクッとふくらませ、それを人差し指でつんつんとつつきながら私にほほえんでいた。

“おいしそう”

ということらしい。

その伝え方がなんとも可愛らしく、私を癒してくれる。私は完全に彼のことが大好きになっていた。