【前回の記事を読む】老人ホーム入居者が「入所時にはパソコン持参」を推奨するワケ

趣味を持つこと

YouTubeを開き検索すれば、好きな音楽はいくらでも聴けますし、絵画も美しい映像で見ることができます。仏像の映像は必見。特に、普段は背面を間近に観ることのできない仏像のクローズアップの映像は息を飲むほど美しい。美術館、博物館に行っても混雑していて、間近で満足に見られない絵を4K映像で見ることもできるのです。混雑のない美術館でゆっくりと名画と向き合えるなんて素敵です。

このように、ネット上でサーフィンする楽しみは、老人ホームでなら誰にも気兼ねなくできます。古い貴重な動画をみつけたときは、珍しい骨董品に出会ったようで大変嬉しいものです。

例えば、若い頃のバーンスタインが少年時代のヨーヨーマを紹介している映像、若い頃のビートルズ、今は亡きチェットベーカーの演奏、グレン・グールドの演奏、イタリア・オペラの最高峰マリオ・デル・モナコ、レナート・テバルディのアリアなど。昼夜を問わず、英語など外国語の勉強も出来ます。ネイティブの素敵な動画も見たい放題。ネット上で旅行もできます。

私見ですが、ネット上の旅行はあくまでも実体験ではなくVR(Virtual Reality)なので、リアルな空気、風、香りは我々の五感を通して味わうことができません。

今コロナ渦で私たちに最も欠けていることは、「3蜜」を避けるために一人一人の実体験が禁止されていること、親しい人に会えないこと、一緒に食卓を囲めないこと、出かけることができないこと、中でも特に若い学生さんたちが、キャンパスライフを禁じられ人間の成長に不可欠の実体験(社会性を身につける機会、友達との交流・友情・会話・遊び・議論)が禁じられていることです。

またオンライン授業のみで、対面授業はほとんどなく、友達に会う機会もなく、まるで太陽にあたらない植物が逞しく成長できないような状況にいることを思うと、私は、このままでは日本の文化が滅びてしまうのではないかという危機感さえ覚えています。

「今年(2021年)9月、文科省から「小学生の頃に様々な体験をした高校生ほど自尊感情が高い」と言う内容の、子供の成長に関する調査研究が発表された。登山、川遊びなどの自然体験や、博物館、美術館などの文化体験、いずれも小学生のときの回数が多いほど高校生になってからの自尊感情が高くなる効果が認められたそうだ。

国語や算数の勉強も大切だが、外の世界へ飛び出してのリアルな体験も同じくらい重要であり、子供の将来を支える「生きる力」に」なる。コロナ渦で2年間にわたり、子供たちのリアルな体験の機会が失われ続けた。10~20年後に、どんなマイナスの影響を及ぼすのか大いに懸念している」と述べているのは、たびえもん代表の木舟周作氏。(日経新聞、朝刊、11月7日、「コロナ渦でも『旅育』の機会を」参照)