【前回の記事を読む】60km/h以上で走る草食動物も狩猟対象!? ホモ・エレクトスが獲物を狩れた驚きの理由

食の大革命

根茎類やドングリの「生のでんぷん」を電子顕微鏡で見ると固い結晶構造をしていて、人間はほとんど消化できませんし、うまくもないのですが、これが「加熱したでんぷん」になると固い結晶構造がほどけ、ブドウ糖というエネルギーのもとになる物質に変化します。

このブドウ糖の形でかみしめると、舌の味み蕾らいという味覚センサーにふれて脳に伝わり、「甘くておいしい」と感じるようになります。つまり、人類は火の使用によって初めて「食の喜び」を知ったのです。

これは食の大革命でした。加熱されたでんぷんがホモ・エレクトスの体にも大進化を引き起こしました。加熱されたでんぷんは体内で糖に分解され、腸から吸収され、脳に集中します。

もっともエネルギーを使うところが脳ですが(現代人ではエネルギーの二〇%を脳で使います)、この脳にブドウ糖がたくさん使えるようになり、脳の神経細胞はブドウ糖をあますところなく吸収して大いに活動するようになり、脳の発達を促しました。

また、根茎や木の実などは非力な女性でも集めることができるので、食物を用意するという女性の役割がますます重要になったことでしょう。ホモ・エレクトスの体格の性差(性的二形)が小さくなったことが示していますように、男女の共同パターンも発達していったにちがいありません(後述する家族の成立を示唆します)。

写真を拡大 図三 ヒトの系譜での脳容積の変化 出典:日本放送出版協会『地球大進化6』

このように、さまざまな道具(石器)の発明、狩りの学習、火の利用、私たちの祖先ホモ・エレクトスは、サバンナで生き残っていくためにさまざまな技術を獲得していきました。これらの創造物(創造術)─道具はみんなに模倣され、いつのまにか、ホモ・エレクトス全体に広がり、それらは代々引き継がれていきました。

ホモ属は生き残るために、その脳をいやおうなく、全力で使わなければならなかったのです。それが、この頃のホモ・エレクトスの脳容積を図三のように急増大させることになりました。