次の年の春。私は一時保育から、年中クラスへと進級した。私を含め24人の、大人数なクラス。今までと大きく違うのは、その全員が同い年だというところだ。

「よろしくおねがいします」

新しいお部屋と、たくさんの知らない顔に緊張しながら自己紹介をすると、クラスのみんなはあたたかく迎えてくれた。

「ひめかちゃん!」

「いっしょにあそぼう!」

みんなとするおにごっこやボール遊びは、大きな遊具よりもっと新鮮だった。たかおに、いろおに、ふやしおに。おにごっこには、いろいろな種類があることを知った。

「きょうはね、こおりおにをしたんだよ」

家に帰ると、保育園で出会った新しいことを母に教える。覚えたばかりのおにごっこのルールを説明すると、「楽しそうだね!」と母が喜んでくれるのが楽しかった。

ほかにも、見たことない遊びはたくさんあった。例えば、パンツ1枚になってのどろんこ遊び。パンツ1枚で走り回る時は、胸にある手術の跡に傷がつかないように、私は上にキャミソールを着る。みんなが真っ黒になっていても、どろんこになる勇気は私の中にはなくて、手や顔にちょっとだけどろをつけながら、白いキャミソールは真っ白を保っていた。

年中からの進級で、最初はクラスに途中から混ざったお客さんのようだった私は、いつの間にかクラスの一員になっていた。体のことは、担任の先生が私を膝に乗せながら、初めに話してくれた。

「ひめかちゃんは、少し体が弱いから、頭や胸のところを叩くのはだめだよ」

ひめかちゃんには優しくしなきゃだめ、とは言われなかった。だからそれ以外は、言ったり言われたり、やったりやられたり。心疾患を持っていると聞いて、大人しい女の子を想像していた先生は、友達にも先生にも遠慮なく言い返していく生意気な私に、とても驚いていた。

秋になった。保育園に入って初めての運動会。年中クラスの見せ場は、竹ののぼり棒だ。のぼり棒は園庭にもあるけれど、私はできたことがない。今まで体を使った遊びをすることなんてほとんどなかったからか、足で体を支えることがとても難しい。

足もとを先生の手で支えてもらって、半分までのぼるのが精一杯。それでも、次はできる気がして練習を重ねる。イメージだけはいつも完璧なのに、と降りるたびに思う。

当日は、ひとりでのぼった。

「ひめかー!」

「がんばれー!」

クラスのみんなに応援してもらいながら、少しでも上へ、空のほうへ。

2年前はずっとベッドの上で過ごしていた私の新しい姿に、観客席で応援していた母の目からまた涙がこぼれた。

※本記事は、2022年3月刊行の書籍『キミがいるから私は』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。