第二章 出会い

高校二年生の春、竜也の転勤で長野県へ引っ越すことになる。神奈川の家には、お茶を教えている忍の妹の茜(あかね)が住むことになり、結里亜たちは年に数回遊びに行かせてもらった。横浜や江の島、鎌倉、時には二子玉川や自由が丘にも出かけた。大好きな七里ヶ浜まで江ノ島電鉄で行くのが楽しみだった。小さい頃から見てきた湘南の海は、結里亜の癒される場所だった。

数年後、結里亜はエレクトロニクスの商社で営業アシスタントとして勤務し、発注や売り上げの管理から手形や小切手の集金をまかされていた。そして、週末は高校時代からの友人の大滝(おおたき)麻彩(まや)に誘われテニスクラブに通った。毎週土曜日、夜七時から二時間ほどの練習だ。部員数は二十名ほどで、毎週通ってくる人は十二、三名だろうか。最初の三十分はラリー、その後はサーブの練習、そしてバックハンドを練習しゲームへと進んでいく。

麻彩は中学時代、テニス部のエースとして活躍していた。今も腕は鈍ることなく、ゲーム中もサーブでポイントを重ね、また、スマッシュも数多く決まっていた。一方、結里亜は体力には自信があるが、ゲームは苦手だった。テイクバックが遅いのかラケットを振るタイミングが遅れてしまうのだ。ラリーの相手はほとんど麻彩だった。打ちやすいところにボールを返してくれるので四十数回続いた。ラリーの時間は楽しかった。

練習の後は、近くの喫茶店にほとんどのメンバーが移動して、コーヒーを飲みながらおしゃべりに花が咲く。これはお決まりのコースになっていた。

また、年に一度、長野県や隣の群馬県、山梨県で一泊二日の合宿があった。昼間は、ラリーや自主練習、それから試合形式のゲームを楽しみ、夜はお酒を飲みながら会話が盛り上がる。そのテニスクラブで知り合ったのが三歳年上の池上(いけがみ)恭一(きょういち)。住宅メーカーで設計の仕事をしている。年齢より若く見える顔立ちで少年のような心を持ち合わせた人だった。テニスクラブの結成当初からのメンバーだ。恭一もテニスの練習から喫茶店でのコーヒータイムまで必ず顔を出していた。

結里亜がテニスクラブに入って半年ほど経った頃、恭一に誘われ、その友人の小浜(こはま)進一(しんいち)と麻彩の四人で野沢温泉スキー場に出かけた。ここは初心者向けのゲレンデも多くスキー経験の少ない結里亜には最適の場所だった。スキーのインストラクターの資格を持つ恭一の指導のもとで結里亜は基礎から練習をした。進一と麻彩も練習に付き合っていた。

最初はリフトには乗らず、スキー板を付けてなだらかなゲレンデをひたすら登る、その後、左右のスキー板を揃えてゆっくり滑る練習を四十分ほどした。それから、恭一と結里亜はリフトに乗って中級者コースのあるゲレンデへ。進一と麻彩は中級者コースでは物足りないとばかりに上級者コースへと移動して行った。

※本記事は、2022年6月刊行の書籍『氷のトンネル』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。