「清水さん、しんちゃんの食事終わったら、幸ちゃん、お散歩に連れて行ってあげなよ。たまにはお姉ちゃんを独り占めしたいだろうからさ」

側に来た明石主任が言った。市の職員だが、定年近い配属でここへ来た。やる気があるとは言い難いが、その分、鷹揚で、人がいい。今も風子の幸多への視線に気づいて言ってくれたのだろう。

「いいんですか」

「大丈夫でしょ、ご飯の後で、昼寝の子もいるし、みんな疲れが溜まってるから、少しは休息も必要ってことで」

「ここのとこ、週末のお泊まりも出来ませんしねえ」

「子供たちも荒れるわな、いっそ、痛いの痛いの飛んでけみたいにさ、コロナ、飛んでけって感じで、ほら、おまじないの、アマビエっての、貼ってみる? あれってどう? 効果あるのかな」

「さあ」

「ふうちゃん、あなたの超能力でなんとかなんない?」と真野さんが大声で言うと、「え、清水さん、超能力なんてあんの」と明石主任が驚いた顔になった。

「そうなんですよ、ふうちゃんには見えるんですよ、見えないものが」

「何、それって、幽霊とか?」

「時々、私たちも観て貰いますよ。私には祖母の霊が憑いてるんですって。私、いろいろあって、祖母に育てられたんで、びっくり」

「えー!」

「違いますよ、ただの人生相談」

「いえ、あれは超能力。とにかくよく当たるんです、商売にしたらいいのに。主任、ふうちゃんには幾ら隠しても総てお見通しですよ」

「なんか怖いねえ。清水さんの旦那さんも気の毒に、浮気も出来ないじゃない」

明石主任が出かかった腹を揺らして笑った。

「幸多、お散歩行こうか」

風子の声に窓辺にいた幸多が振り向き、大きな声を上げた。

※本記事は、2022年6月刊行の書籍『飛蝶』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。