(そういえば五限の授業って、古典だっけ? しまったなー、宿題やり残してた)

大抵の教科は苦にしている奏空だが、古典は数学と並んでの鬼門であり、特に前回の中間考査では赤点を取ってしまった。宿題などで平常点を稼がないと補習を受けるハメになり、部活に割ける時間が減ってしまう。エースが欠ければチームにとっても迷惑な話。

部活特化のコースに属する、それもスカウトで入学させた身分に学力を求めるのはおかしな話だよね。と、心の中で愚痴を零すも、誰かに宿題を写させてもらえばいっか、と奏空は楽観的に結論を出したが、

「わっ、ヤッバ。もうこんな時間」

アプリをチェックしたら、チームメイトのフミから『そーらー、おっそ~い。もう始めちゃってるよ~?』という忠告が。『ごめん、すぐ行く!』と奏空は返信する。昼食では十月に控える修学旅行の話題ですっかり盛り上がってしまい、

「なこちゃん、修学旅行で好きな男子に告るって言ってたけど。本気なのかな?」

卵焼きを頬張りながらそう宣言した友達が眩しく映ってしまったのは、取り残されることから逃げたい気持ちの表れなのかもしれない。

(充実してない、なんてことはないんだけど。ないんだけど……)

そして奏空は口走る。

「きっかけがあれば、もっとよくなるのかなあ」

首を捻りかけたが、悩んでいてもつまらない。奏空は上機嫌な鼻歌混じりに歩くペースを上げ、そこの角を曲がろうとした──……。

※本記事は、2022年6月刊行の書籍『恋終わりの雨が7の日に降る確率』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。