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会場に戻る直前、携帯に入ったショートメールを確認してうんざりする。

「余裕があれば、海上保安官に怪しい奴がいないか見ておけ」

先ほど我が上司が伝えたかったことはこれか。私の直感、特に悪い予感は当たるのだ。彼の下で働いてから、プライベートが仕事に一転することが多いように思う。恋愛運だけでなく、上司運にも恵まれていないのか、私は。

それでも、最後までパーティーを楽しむ権利はあるだろう。気を取り直して私が新しい飲み物を選んでいると、朝木さんの後輩──体格のいい彼──がやってきた。

「スミレさん……でしたよね。お友達も一緒なので、よかったら僕たちと合流しませんか」

「三木さん。ありがとうございます。お邪魔でなければ……」

「邪魔だなんてとんでもない」

先ほどの印象とは打って変わって随分明るいな……お酒で人格が変わってしまうタイプなのか。しかしよく見ると、額や首筋に相当の汗をかいている。会場はそれほど暑いとは感じないが、余程緊張しているのだろうか……それとも。上司の顔が頭をよぎる。

勝手に思考をめぐらせながら三木さんに付いていくと、リサ、朝木さんの他に男性が二人いた。朝木さんの同期と部下のようだ。それなりに会話は盛り上がっており、朝木さんだけでなく他の男性たちも快く私を輪の中に迎えてくれたので、せっかくの機会だからと私はまず、無難かつ興味のある内容、彼らの仕事内容について質問した。

海上保安官とひと口にいっても、犯罪捜査や警備、パイロット、船舶整備などの業務もあるようで、そうなると職場も飛行機内や陸上など多岐にわたって職種が分かれているという。皆が皆常に海上に出ている、船舶内にいる、というわけではないらしい。今話している彼らは皆、救護系という海難事故で要救助者を救出することに関わる仕事をしているようだ。まさに海犬である。

無事救出できてお礼をいわれた場合はこの上もなくやりがいを感じられる反面、息があるうちの救出がかなわなかった場合の悔しさ、過酷さも体験談として教えてもらった。話に聞くだけでは現場の壮絶さを想像しようもないが、それでも光と影のある命がけで大変な仕事だなあと思う。

その後も男性陣は時事問題から理想の恋人像についてなど積極的に話題を回してくれた。なかなかのコミュニケーション能力だなあと感心しつつ、どの目線からものをいっているのだと自身に突っ込みを入れる。

特に優男の朝木さんは、周りをよく見ていて気配りがうまい。どんな会話もそつなくこなしながらしっかり飲み食いもしている様子を見ると、かなり要領がよくモテるのであろうことが容易に想像できる。

飲み物や食べ物を取りに行った先でも、近くにいる女性にさらりと声をかけ、しっかりと自分の印象を残して戻ってきているようだ。話しかけられた女性たちは案の定、目を輝かせて朝木さんを目で追っているし、行動力のある人なんかは素早く名刺を渡しているし、さすがの人気ぶりだ。

ただ、その反面女性関係にだらしない人でないといいけど……と勝手にリサの心配をする私をよそに、当の本人はとても楽しそうだ。

「今度このメンバーでご飯に行きましょうよ、カイリさんの好きなイタリアンで!」

と主導権を握るわ、ちゃっかり朝木さんの好みも把握して下の名前で呼び始めるわで笑ってしまった。そうして楽しくお喋りに参加していた私だったが、なぜか先ほどのタオルを拾ってくれた男性を無意識に探して会場内に目を走らせてしまうのだった。