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フジ

『高校三年生』(舟木一夫)

『高校三年生』は詰襟姿の舟木一夫が昭和の半ばに歌って、ヒットした。東山魁夷の絵の若駒の雰囲気を持つ歌手だった。今も現役の歌手だろうか。フォークダンスで手を取る女生徒の黒髪に憧れ、高校三年生の自分達の交友はずっと続く、と歌った。

クラスメートで、今も友好関係が続いている人は何人かいる。例えば、A子さん。出会いは高校一年生だった。入学式後に決まった座席のすぐ後ろが、彼女だった。最初から馬が合った。

三年間はいつもA子さんと一緒だった。廊下を歩いて教室を移動する時も、昼食の時間も、下校時の寄り道も。喧嘩の後の授業中に、手紙を書いたノートを破って、丸めて投げ合ったこともあった。学校帰りに二人で観た映画も覚えている。「終着駅」と「ウエスト・サイド・ストーリー」だ。

結婚して、それぞれの住まいを訪ね合った後、疎遠になった。行き来が再び親密になったのは、還暦を迎えた年で、二人で誕生日会をすることになった。私達の誕生日は一週間違いだ。

その日、ソニービルに向かって銀座の歩道を歩いていると、上品な中年女性が歩み寄ってきて、言った。「あなたの人生が良くなりますね」と。半信半疑で聞いて、A子さんとのイタリア料理の食事会を楽しんだ。

その後も毎年、九月の下旬に、二人の誕生日会は行われてきた。東京に住む、グルメのA子さんが、都内の料理店やブームのカフェを予約する。知恵袋の彼女からは他にも多くのことを教わった。けれども、人生が良くなったと実感する出来事は起こらなかった。

数年後の誕生会は、亀戸の料亭で、だった。店の前の卓に、鮮やかな緑の葉のついた亀戸大根が数本置かれている。あさり飯を注文した。この界隈では、深川飯と呼ばれている。食後、亀戸天神まで歩いた。菅原道真公を祀る亀戸天神は、藤の名所である。薫風に揺れる風雅な藤の花房が、至福の時へと誘った。

帰りの電車で思い出したのは、ソニービルの近くで女性が言ったことだった。あの人が占い師だと、後に雑誌の写真で知った。A子さんを始めとする級友達の輪が、波紋のように広がって、胸をときめかすことが増えている昨今、易者の言う「良い人生」には「交際」が含まれているに違いないと、今感じる。

舟木一夫の歌声が聞こえるようだ。

「クラス仲間は……」